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麻酔を受ける方へ

麻酔科

はじめに

手術は病気やけがの治療のため行われますが、身体に大きなストレスをもたらします。これに耐えられるように行うのが麻酔です。
全身麻酔は意識を無くし、体を動かないようにする麻酔法です。痛みを管理し、手術操作による有害な反応を抑えるのも麻酔の役目です。また呼吸や循環(血圧・脈拍など)など全身の管理を行います。手術中は心電図、血圧計ほか様々な機器を用いて常時厳重な監視を行い、状態の変化に迅速に対応します。患者様は手術の間、痛みを覚えることはなく記憶も残りません。
現在では安全性の高い麻酔薬・麻酔法の開発、麻酔器具・監視装置の進歩などにより麻酔の安全性は非常に高いものになっております。とはいえ、手術の種類や患者さんの状態によっては絶対に安心とは言い切れない場合もあります。当院ではそのような危険が生じた場合でも迅速、的確な処置ができるよう体制を整えています。

麻酔の手順

麻酔の大まかな手順は以下のようになります。手術の内容や患者様の状態により細部は異なります。

病棟で

  1. 手術前に麻酔科医師が麻酔科外来または病室で診察を行います。このとき麻酔法の説明もいたします。質問がありましたら遠慮なくおたずね下さい。
  2. 手術前の飲食止めをします。これは意識のない時に嘔吐して窒息したり、吐物が気管内に入り誤嚥性肺炎(重症の肺炎)を起こすことを防ぐためです。
  3. 常用の薬がある場合は内服を継続する場合もあります。麻酔科医の指示に従って下さい。
  4. 点滴をし、水分を補給します。

手術室で

▼脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔・腰椎麻酔)の場合

  1. 手術室に入ります。手術用ベッドに仰向けになり心電図・血圧計などの監視装置を装着します。
  2. ベッドの上で横向きに寝て、膝を抱えるようにして身体を丸めます。
  3. 麻酔科医が背中を消毒します。アルコールを使いますのでひんやりします。
  4. 麻酔用の針が入る前に、腰に局所浸潤麻酔(痛み止め)の注射をします。しない場合もあります。
  5. 腰に麻酔薬の入る針が入ります。
  6. 針が適切な位置に達したところで局所麻酔薬が入ります。
  7. 仰向けに戻ります。麻酔の効果を固定させるためしばらく横向きのままに保つ場合もあります。
  8. 数分で麻酔の効果が現れ、下半身中心にしびれが出ます。痛みや冷たさは感じなくなりますが触った感じは残ることがあります。気になる場合は麻酔科医にお伝え下さい。十分麻酔が効いてから手術が行われます。
  9. 手術が終わると、全身の状態が安定していることを確認し病棟あるいは集中治療室へ移ります。麻酔薬の種類と量にもよりますが麻酔の効果は2時間あるいは3時間前後継続します。

▼全身麻酔の場合

  1. 手術室に入ります。手術用ベッドに仰向けになり心電図・血圧計などの監視装置を装着します。
  2. 硬膜外麻酔(別記)を併用する場合は、前述の脊髄くも膜下麻酔に準じた手順で背中から針を刺し、細い管を挿入します。
    (一部の末梢神経ブロックでも全身麻酔前に注射を行うことがあります。手順は6を参照してください)
  3. 必要に応じ、マスクより酸素の吸入を行います。行わない場合もあります。
  4. 点滴の管の途中から眠くなる薬が入り、意識がなくなります。
  5. 口から気管に人工呼吸用のチューブが挿入されます。口腔内に入れるマスク(ラリンジアルマスク)が使用される場合もあります。この時の操作で歯をいためる場合があります。差し歯やブリッジ、ぐらぐらする歯のある方はあらかじめお知らせ下さい。
  6. 末梢神経ブロックを併用する場合には、多くの場合この全身麻酔がかかり手術が始ます前のタイミングでブロック注射をします。注射部位の消毒を行い、エコー装置の画面で神経の位置と注射針をよく観察して行います。
  7. 手術が行われます。麻酔科医が全身状態を監視し必要な管理を行います。手術の間の麻酔は呼吸により取り込まれる気体の麻酔薬と点滴から入る麻酔薬で行います。
  8. 手術が終わると麻酔薬が止められ、意識が戻ります。意識が戻り呼吸がしっかりしていることを確認し、気管に挿入したチューブ(あるいはラリンジアルマスク)を抜去します。
  9. 全身の状態が安定していることを確認し、病棟あるいは集中治療室へ移ります。

病棟・集中治療室に移って

  1. マスクによる酸素吸入を行います。必要に応じて心電図、血圧計などの監視装置を装着します。
  2. 翌日(或いは後日)、麻酔科医がうかがい手術後の状態を確認します。

※硬膜外麻酔について
神経をブロックする局所麻酔の一種です。近年では胸・腹部の手術で全身麻酔に硬膜外麻酔を併用することが多くなっています。
具体的な手順は上述の脊椎くも膜下麻酔の手順に準じて行われます。背中ないし腰の適切な位置に針を刺し、その針を通して細い管を脊髄・髄液を覆っている膜(硬膜)の外側に挿入します。この管より局所麻酔薬や鎮痛薬を入れることで痛みを取ることができます。
手術の間だけでなく手術後の鎮痛にも使用されます。

麻酔に伴う障害について

現在では、麻酔の安全性は非常に高いと言えますが、障害は起こり得ないとは言い切れません。起こりうる障害(合併症)について説明します。

併存疾患と麻酔

元来持っている病気が手術・麻酔に際して身体に大きく影響する場合があります。術前の麻酔科診察でそのような病気についてうかがいますので些細なことであってもお知らせ下さい。
麻酔管理上問題となることの多い疾患を下記に挙げます。

・呼吸器疾患:かぜ、ぜんそく、呼吸不全、肺の手術後など

・循環器疾患:高血圧、心筋虚血(狭心症、心筋梗塞)、心臓弁膜症、先天性心疾患など

・脳疾患:頭痛、めまい、一時的な意識消失、脳出血、脳梗塞など

・その他:糖尿病、ホルモン異常、先天性代謝異常、肝臓病、腎臓病、腎不全、貧血、血が止まりにくい、緑内障、リウマチ、膠原病など

また手術・麻酔を契機にこれらの疾患が悪化し、治療を要する可能性もあります。

薬に対する反応

・アレルギー:麻酔中に使う薬剤に対してアレルギー反応が起こることがあります。これを予見するのは困難ですが、食べ物や薬で異常な反応があった方、歯科の麻酔や以前の全身麻酔などで異常があった方はお知らせ下さい。

・悪性高熱症:一部の麻酔薬により誘発される、きわめてまれな(発症率0.004%と言われています)病気です。全身の代謝異常を生じ筋肉の硬直と異常高熱をきたし死に至ることもある症候群です。特効薬が開発されて最近は救命率が高まってきました。遺伝が知られていますので、血縁者に麻酔で異常のあった方がいる場合はお知らせ下さい。

・臓器障害:薬には程度の差こそあれ、肝臓や腎臓に負担を与えます。通常は問題にならない程度ですが、肝機能・腎機能の低下している人などでごくまれに障害を起こすことがあります。

気道確保のためのチューブの影響

・声帯のむくみ:チューブの圧迫により、手術後のどの痛みや声のかすれが出る場合があります。通常、時間とともに軽快します。

・歯牙損傷:口が開きにくい、首が曲がりにくいなどの支障がある場合、チューブを挿入するとき用いる器具により歯に大きな力が掛かり、歯が欠けたり折れたりする場合があります。差し歯やぐらぐらする歯がある場合はあらかじめお知らせ下さい。

脊髄くも膜下麻酔に伴うもの

・神経障害:麻酔の針が直接神経に触れたり、高濃度の局所麻酔薬に神経が曝露されることにより神経に障害が出て、足のしびれが続いたり痛みが残ることがごくまれにあります。その場合は麻酔科にご相談下さい。

・脊椎麻酔後頭痛:脊髄くも膜下麻酔の後に頭痛を生じる方がいます。体を起こすと強くなり、寝ていると軽くなる頭痛です。その多くは時間とともに軽快しますが、痛みが強い場合は麻酔科にご相談下さい。

・感染:充分に消毒し、清潔操作を行いますので危険は少ないのですが、まれに感染を起こすことがあります。

硬膜外麻酔に伴うもの

・下半身の麻痺:きわめてまれに管の挿入部の背骨の中に血の固まりができて神経が圧迫され、下半身などの麻痺が生じる場合があります。この場合には迅速な対処が必要となりますので、手術の後、足の動きが悪い等あった場合にはお早めにお知らせ下さい。
血が止まりにくい病気の人、血を固まりにくくする薬を飲んでいる人で起こり得ます。このような人は手術前にあらかじめお申し出下さい。血を固まりにくくする薬は、脳梗塞、心筋梗塞・狭心症、不整脈の一部、血栓性静脈炎、閉塞性動脈硬化症、心臓血管手術の手術後などに使われます。
感染 充分に消毒し、清潔操作を行いますので危険は少ないのですが、まれに感染を起こすことがあります。

・硬膜外鎮痛法に使われる鎮痛薬の副作用:鎮痛薬の副作用で、嘔気・嘔吐、皮膚の痒み、めまい・強い眠気、排尿障害(おしっこが出にくい)などの症状が出る場合があります。このような症状が強い場合は看護師等スタッフまでお知らせ下さい。

その他

・呼吸障害:手術後、無気肺、肺炎などの呼吸器合併症が起こる場合があります。高齢者、喫煙などで、呼吸する力が低下している場合に起こりえます。

・認知機能低下:高齢者では手術後、一時的に痴呆症状を呈すことがあります。通常、時間と共に手術前の状態に戻ります。

麻酔管理に伴う危険について

日本麻酔科学会が1999年~2002年に行った調査によれば、麻酔管理が原因での心停止は1万症例あたり0.47例。同じく死亡は0.10/1万症例。重症の全身疾患を持たない症例での麻酔管理が原因の死亡は0.04/1万症例、と報告されています。
疑問な点などありましたら、麻酔科医にご遠慮なくおたずね下さい。

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