HOME > 診療科紹介 > 麻酔科 > 関連話題

関連話題

麻酔科

患者調節鎮痛法(Patient Controlled Analgesia)について

当院麻酔科では手術後の鎮痛に積極的に患者調節鎮痛法(Patient Controlled Analgesia:以下PCA)を用いています。PCAについて以下にご紹介します。

PCAは1960年代終わりに新しい疼痛管理法としてその基礎が発表されました。その後、使用器具の進歩などにより1980年代には欧米で急速に普及していきました。その後も器具や鎮痛薬の使用法など進歩を続け、有効性・安全性が高められています。現在アメリカでは手術後の鎮痛法としても推奨されている鎮痛法です。
日本には1980年代に導入されたのですが一部のペインクリニック領域を除いて普及しませんでした。これは使用する器具が高額であったこと、痛みの専門家が少なかったこと、痛みの管理に対する関心が欧米に比べ低かったことによると思われます。近年、より上質の周術期管理を、という声が高まる中でPCAの有用性が再評価され術後疼痛管理法として用いる施設も増えてきました。

PCAは患者さんが痛みに応じて自分で鎮痛手段をとることが出来るようにしたシステムです。従来の鎮痛法では、

  1. 医師が患者さんの症状から痛みの性状、強さを判断する。
  2. 医師が鎮痛手段、鎮痛薬及びその使用量をきめる。
  3. 鎮痛を行った上での患者さんの反応から鎮痛法を評価しより適した鎮痛法を設定する(通常は薬剤量の調節)。
  4. 患者さんに最適の鎮痛が得られるまで「3」を繰り返す。
  5. 患者さんの痛みの状態、状況の変化にあわせて鎮痛法を再評価、調整を行う。

という手順をとります。痛みの感じ方には個人差が大きく、鎮痛薬の効果もまた個人差が大きいため、同様の刺激に対しても鎮痛薬の必要量は個人間で10倍程度の差があると言われます。その必要量を探ることになるため適切な鎮痛を得るまでに時間と労力がかかることもしばしばです。
これに対してPCAでは、医師の決めた範囲内である程度自由に患者さん自身が鎮痛手段をとることができます。これにより上記③④にかかる手間が大幅に短縮され、より早くかつ簡便に患者さんに適切な鎮痛を提供できることが期待できます。上記⑤への対応も容易であり、リハビリなど痛みを伴う治療の際もきめ細かい対応が期待できます。また疼痛時、看護師を呼び出す煩雑さも軽減できることでしょう。

当院では手術後2~3日間使用する使い捨てタイプの注入装置を使用しています。薬剤は硬膜外(硬膜外鎮痛法)、静脈内、末梢神経ブロック部に注入されます。鎮痛薬は持続的に注入されますが、患者さんが痛みを感じたときにPCA装置のボタンを押すことで鎮痛薬が追加投与される構造になっています。続けて、あるいは短い時間間隔でPCAボタンが押された場合は鎮痛薬が入らないあるいは減量される構造になっており、薬剤が過量になるのを防ぎます。

このように優れた疼痛管理法であるPCAですが、自ずから限界もあり、患者さんの状態や手術内容により他の鎮痛法を選択する場合もあります。また、より多くの患者さんで満足のいく鎮痛を得られることが期待されますが、残念ながらそれに至らない場合もあります。

麻酔と予防接種

全身麻酔にあたっては予防接種との間隔に注意を払う必要があります。これは麻酔・手術により免疫が抑制され、目的とする免疫が出来なかったり、発熱・発疹などの副反応が増強されることがあるためです。生ワクチンによる感染症の発症の可能性も否定できません。
予防接種について当院麻酔科での基準をお知らせします。全身麻酔で手術を受けられる際にはご留意下さい。ことに小児ではご注意下さい。

予防接種後全身麻酔を避けるべき期間

生ワクチン
【麻疹、風疹、MRワクチン、BCG、流行性耳下腺炎、水痘、ロタウイルス、黄熱】
4週間以上
不活化ワクチン
【三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)、四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、不活化ポリオワクチン)、不活化ポリオワクチン、インフルエンザ、日本脳炎、B型肝炎、A型肝炎、狂犬病、子宮頸癌(HPV)ワクチン肺炎球菌、インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、Weil病、秋やみ】
2週間以上

※緊急手術等では諸条件を考慮に入れ総合的に判断する。

全身麻酔後予防接種を避けるべき期間

小手術後 2週間以上
侵襲の大きい手術後 4週間以上

手術麻酔と喫煙

最近禁煙運動の高まりや、喫煙による健康障害などが注目されていますが、麻酔に関しても喫煙はとても重大な影響を及ぼします。たとえばタールやニコチンをはじめとするたばこに含まれる多くの化学物質による呼吸器系への作用は、術後の呼吸器合併症の発生頻度を上昇させます。

術後の呼吸器合併症に対して、最も効果的で予防可能な危険因子として喫煙が知られています。従って手術が予定された患者さんには無条件で禁煙をおすすめいたします。それも手術の数日前からではほとんど効果が上がりません。逆に禁煙の期間によっては逆効果になってしまうこともあり得ます。その理由としては、禁煙の効果はその期間に応じて順に現れてくることが考えられています。

禁煙を始めるとまず血圧や脈拍が安定してきます。次に数時間で血中の一酸化炭素が減少し始め、血液の酸素運搬能が上昇します。また数日で血中のニコチンも低下し始め、このころからたばこによって傷害された気道組織の修復が始まり、一過性に喀痰の排泄が増えます。これがこの時期術後合併症の改善しない原因の一つと考えられています。さらに禁煙を続けると4週間後ころより呼吸器系の合併症が減り始め、なんと6週目以降では手術の傷の治りも良くなるとされています。

このように禁煙は手術麻酔に対していいことずくめで、手術前少なくとも4週間、可能なら6週間以上前からの禁煙をおすすめいたします。
「たばこを吸うと落ち着く、これがたばこの効用だね。」等と言う人がいますがそれは間違いです。たばこをきらしたときの不安やいらいら感はとても気持ちの悪いものです。

手術を受ける予定のない人にも、禁煙をおすすめいたします。禁煙することによって今までとは全く違う健康的な生活スタイルになることでしょう。過去15年間喫煙していて、現在禁煙10年の私が言うのですから間違いありません。

済生会新潟第二病院 麻酔科 多賀紀一郎
(なでしこ通信 平成15年6月2日号掲載)

麻酔と妊娠

全妊娠の約1%で産科以外の手術が必要になるといわれています。妊婦さんの手術や麻酔で重要なことは、母体の安全、催奇形性薬剤投与の回避、子宮胎盤血流の維持、流早産の防止などです。
当院でも、母体の生命に危険が及ばない限り、胎児への麻酔薬の影響を考え、催奇形性の心配がなくなる妊娠16週まで待機して、妊娠16週以降に、手術・麻酔を行っています。(下記を参照)
また、麻酔も、可能な限り、脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔で行います。
いろいろな場合に応じて、適切な対応が必要です。その都度、麻酔科医に十分ご相談下さい。

予防接種後全身麻酔を避けるべき期間

妊娠4週以前

薬物の影響を受けた受精卵は流産するか、完全な健児で分娩される(all or noneの法則)。この時期の薬剤の投与では一般に胎児への影響を考慮する必要はない。

妊娠4週~7週

胎児の中枢神経、心臓、消化器、四肢などの重要臓器が発生・分化し薬剤の催奇形性に最も敏感な時期である。

妊娠8週~15週

性器の分化や口蓋の閉鎖などが行われる。催奇形性のある薬剤には引き続き注意が必要な時期である。

妊娠16週以降

催奇形性という意味での胎児への影響はない。しかし、薬剤によって胎児環境への影響、発育抑制、子宮内胎児死亡など胎児毒性をきたす可能性がある。

ページの先頭へ