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主要な疾患についての解説

主要な疾患についての解説

乳腺

乳腺の病気にはがんの様に身体をむしばむ悪性のもの、悪い性質は無いがしこりや痛みなどの症状のあるものなど様々です。それらについて確実に診断し、治療の作戦を立て、最善の方法で治療することが乳腺外科の役目です。乳腺疾患の診療に際し当院では、日本乳癌学会乳腺専門医が中心となり、放射線科、病理診断科、緩和ケアチーム、看護師、薬剤師が協調し、チーム医療で当たります。

乳腺疾患について

良性

  • 乳腺症
     性成熟期に乳腺組織が厚ぼったくなる、繊維質が多くなる等の多彩な変化が起こり、「乳房が痛い」「しこりを触れる」「硬く触れる」などの症状を呈します。病気ではなく、一般に治療を必要としないものの、「しこりを触れる」などの場合は、腫瘍ではないことの確認が必要なので、画像診断が必要です。
  • 線維腺腫・葉状腫瘍
     20~40代の方に良くできる良性腫瘍として最も多く見られます。通常は平滑なしこりとして触れ、ゆっくりと増大しますが、閉経期以降に縮小する場合があります。良性腫瘍ながら巨大化することや、葉状腫瘍の一部は悪性の性格を持つ場合があるので、状況により手術の対象となります。
  • 乳管内乳頭腫
     乳管の中に出来る良性腫瘍で、乳頭分泌(授乳期でないのに乳頭から液が出る)の原因となります。分泌液の色が赤色または褐色~黒色調の場合は、乳癌との区別が必要なため、受診・検査が必要です。
  • 乳腺炎
     主に授乳期に乳管内での乳汁うっ滞が原因で起こる炎症で、乳房が赤く腫れて痛み、発熱を伴う場合もあります。乳汁うっ滞の解除、搾乳、抗生物質で治療しますが、重症化すると切開・排膿を要する場合があります。

悪性

乳がん

 乳腺組織から発生する悪性腫瘍。元々欧米に多く発生し、日本人を含むアジア人には多くないとされていましたが、近年日本人の乳癌は増加傾向が続き、女性固形がんで罹患率1位、ここ15年で2倍に増加、2015年には年間89000人が罹患、年間10000人以上が死亡しています。

乳癌年齢別罹患率の日米比較と日本における主要癌腫の年齢別罹患率

米国の乳癌罹患率はピーク年齢比較で日本の約3倍。
好発年齢が日本では中年、米国では高齢者。

日本における主要癌腫の年齢別罹患率

乳がんの診断

乳がんの診断は、主に画像診断(エコー、マンモグラフィー、CT、MRIなど)と病理診断(細胞診、針生検)によりなされます。『しこりを触れる』『乳房にくぼみが出来る』『乳頭が陥没する』『乳頭から褐色や赤黒い液が出る』等の症状がある場合は、乳がんである可能性がありますので、速やかに受診して頂く必要があります。また、40歳以上の方は症状が無くても、2年に1回はマンモグラフィーによる乳がん検診をお勧めします。

乳がんの診断

乳がんの進行度

 乳がんの進行度はしこりの大きさ(T因子)、リンパ節へ転移状況(N因子)、遠隔部位への転移状況(M因子)によって決まり、臨床病期(Stage)で表されます。
がんが乳管の中に留まる状態が最も軽い病期で0期(Stage0)、内臓などに転移を有する場合が最も重い病期でⅣ期(StageⅣ)、このあいだをT因子・N因子によりⅠ期~Ⅲ期に分けています。臨床病期は治療を受けた患者さんの行く末(予後)と強く関わっています。

全生存率

乳がんのタイプ

乳がんには色々な特性を持つタイプが存在しており、通常4つの『サブタイプ』に分けられます。
①女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)に対して『受け皿』(受容体)を持ち、女性ホルモンをエサにして育つものに以下2つのタイプがあります。
Luminal(ルミナール) A タイプ … 細胞の増え方がゆっくりで最も振る舞いがおとなしい。
Luminal(ルミナール) Bタイプ … 細胞の増え方がすこし速く2番目に振る舞いがおとなしい。
②HER2 (ハーツー)タイプ
HER2(ハーツー)蛋白という細胞内の信号伝達に関わるたんぱく質を持っており、細胞の増え方が急で転移を起こしやすい。
③トリプルネガティブタイプ
エストロゲン・プロゲステロンに対する受容体、HER2蛋白のいずれも持たないタイプで、最も転移・再発が起こりやすく、振る舞いが荒々しい。
これ等の『サブタイプ』は、薬物による治療をおこなう際に大変重要で、各タイプに対して効きやすい薬剤が違っているため、病理検査(顕微鏡検査)でサブタイプを調べることが、薬物療法の第一歩となります。

全生存率

乳がんの治療戦略

乳がんの治療を考える上では、『進行度(Stage)』と『サブタイプ』を把握することが第一歩で、状況により優先順位があります。大原則としては、乳房や腋の下のリンパ節以外に転移の病巣がある場合は手術よりも全身薬物療法(ホルモン療法・化学療法・分子標的療法)が優先、そのような転移の病巣が無い場合は全身薬物療法よりも手術が優先されます。放射線治療は状況により組み込まれます。しかし、サブタイプ等によっては、転移病巣が無くても、薬物療法を行った後に手術を計画した方が良い場合があります。
 乳房や腋の下のリンパ節以外に転移の病巣がある場合、病気全体を消し去ること(根治)は難しいため、局所の病変を手術や放射線で一生懸命治療しても、全体として患者さんへの利得が多くないと考えられるのです。この様な場合、薬物療法の選択も、効果の高さより身体への負担(副作用)の少ない薬物を優先します。したがって、ホルモン療法が有効なサブタイプであれば、ホルモン療法から始めることになります。
 一方、転移の病巣が無く、根治が望める場合には、局所治療(手術・放射線)と薬物療法を総動員して根治を狙うようにします。

  • ①術前化学療法 ⇒ 手術 ⇒ 術後補助療法(薬物・放射線)
    術前の画像診断では手術可能と考えられるが、腋窩リンパ節に転移が見られたり、ホルモン非感受性など転移・再発を来しやすいサブタイプである場合、また、腫瘍を縮小して乳房部分切除(温存療法)に持ち込みたい場合などには、手術前に約6ヵ月間の化学療法を行った上で手術を施行します。手術で切除された病巣を顕微鏡で調べた結果、がん組織が完全に消失した場合(病理学的完全奏効:pCR)、そうでない場合よりも良好な行く末(予後)が期待されます。術後は状況に合わせて必要な補助療法を施行します。
  • ②手術 ⇒ 術後補助療法(薬物・放射線)
    術前の画像診断で手術可能、腋窩リンパ節転移無しまたは少数で、ホルモン感受性など比較的おとなしいサブタイプである場合、先ず手術を施行し、切除された病巣の顕微鏡検査(病理検査)報告をもとに、術後必要な補助療法を行って行きます。補助療法は薬物療法(化学療法・内分泌(ホルモン)療法、分子標的治療)、放射線治療を病気の進行度やサブタイプに合わせて順次計画します。

乳がんの治療方法

全生存率

乳がん治療(初期治療)のおおまかな流れ

全生存率

乳がん手術の方法(術式)

 乳癌に対する手術は乳房の処置と腋窩リンパ節に対する処置に分けられます。乳房に対しては全摘が必要か、部分切除で良いのかを考える必要があり、腫瘍の大きさや部位などによって決定します。部分切除した場合には、局所の治療効果(局所制御)を全摘と同等に高めるために術後25回~30回の放射線治療が必要です。術前の画像で腋窩のリンパ節が腫れている場合、転移を疑う必要があるため、手術では腋窩のリンパ節を一まとめに切除(郭清)します。画像診断で腋窩のリンパ節が腫れていない場合は、『センチネルリンパ節生検』で腋窩の入り口にあるリンパ節を摘出し、術中に転移の有る無しを調べ(術中迅速診断)、転移があると判定された場合には郭清を追加します。

全生存率

根治性と整容性を両立させた乳がん手術(オンコプラスティックサージャリー)

当科では術前にマンモグラフィー、エコー検査と造影CT・MRI検査を行ない、腫瘍の進展範囲を正確に把握した上で、乳房部分切除(温存療法)の可否を判断しています。腫瘍の位置や乳房の形にもよりますが、一般的な温存療法の条件(腫瘍が3㎝以内)より広い範囲の病変に対しても、オンコプラスティックサージャリー(Oncoplastic Surgery)を駆使することで、変形の少ない温存療法が可能で、当科では2011年よりこの技術を本格的に導入しています。
乳房温存療法では、病変の周囲を広く取り去れば病巣を取り残す懸念は少なく安全ですが、それだけ欠損も大きくなり乳房の変形が強くなってしまいます。病巣を充分な余裕を持って切り取った後、乳房形態を整える技術を駆使して欠損を修復することにより、この問題を解決可能です(根治性と整容性の両立)。乳房形態を整える技術には、欠損部周囲の乳腺をずらして形を整えるものから、乳腺外の皮下脂肪を血管を傷めずに欠損部分に移動して埋め込む方法、腹部の脂肪を引き上げて欠損を修復するものなどを状況に合わせて使い分け、術後の変形を極力小さくする様に取り組んでいます。
この様なプラスティックサージャリーの技術を以てしても限界はあり、乳腺の全摘を避けられない場合も存在します。当科では病変の状況と患者さんの希望をあわせ考え、乳腺の全摘手術に引き続き、即座に御自分の背中の組織を血流の保たれた状態で胸部に移動し乳房を再建する手術(即時再建/一次一期再建)も手掛けています。

乳房温存療法時の乳房形成-1 Lateral tissue flap

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乳房温存療法時の乳房形成-2 Inflamammary adipofascial flap (乳房下溝線脂肪筋膜弁)

全生存率

乳房温存療法時の乳房形成-3 Abdominal advancement flap (腹部前進皮弁)

全生存率

乳腺全摘後の再建手術 - 広背筋皮弁による即時再建 –

乳腺を全摘したあと即座に再建手術に取りかかり、一回の手術で再建まで済ませてしまう方法(即時再建)が可能です。 当科では、御自分の背中の筋肉と脂肪を、栄養血管を痛めずに採取して胸に移動し、乳腺欠損部に移植する方法(広背筋皮弁)を行っています(保険診療)。

全生存率

 この方法では手術が一回で済み、乳房の喪失感が極めて少ないことが利点ですが、御自分の健常な組織を犠牲にする必要があり、手術時間・術後入院期間が長いのが問題点です。

手術時間:6~7時間
術後入院期間: 約2週間

 背部に留置したドレーンを抜去したら退院可能ですが、退院後も背部の傷の下にリンパ液が溜ってくる場合があり、外来での処置で対処して行きます。
 広背筋を再建手術に使うことによる欠落症状は、競技レベルのスポーツ選手の場合にあり得ますが、日常生活においては問題にならない場合がほとんどです。

緩和ケア

がんの患者さんを中心に診療を行っています。がんの診断時から終末期まで、時期は問わずにケアをさせていただきます。
基本的なサポーティブケアは入院・外来に関わらず、かかりつけ医など主治医チームが行っていますが、患者さん・ご家族にはそれでも緩和されないつらさがあると思います。つらさには、痛みなどの身体症状だけでなく、心理的・社会的・スピリチュアルな問題を含めて全人的に対応することを心がけています。患者さん・ご家族を一つの単位と考え、QOLの向上を目指すのが緩和ケアです。
患者さんは当院通院中でなくても構いません。また、がん以外の疾患でも専門医と相談しながら、ケアを行っていくことは可能です。
当院には緩和ケア病棟はありませんが、入院に関しても一般病棟でよければ、喜んでお引き受けします。
何かお困りの際には、「がん相談支援室」を通じてご相談いただければ幸いです。

肝胆膵

肝胆膵癌

肝胆膵進行癌で治癒切除可能な症例に対しては、専門医による開腹下根治手術を第一選択としています。肝細胞癌や転移性肝癌の中で肝部分切除や肝外側区域切除などについては、内視鏡外科技術認定医による安全な腹腔鏡下手術が施行可能です。
また、従来開腹でしか治せなかった胆・膵早期癌や低悪性度腫瘍に対しても、症例によっては低侵襲な腹腔鏡下手術が安全に施行可能です。

胆嚢結石症・総胆管結石症

胆嚢結石症に対してはほぼ全症例に腹腔鏡下手術が可能であり、特に美容的に優れているといわれる単孔式腹腔鏡下手術を採用しています。また、従来開腹手術が基本であった総胆管結石症に対しても、当院では腹腔鏡下手術を積極的に行っています。

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