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パラドックス的人生

 済生会新潟第二病院眼科で、1996年(平成8年)6月から毎月行なっている勉強会の案内です。参加出来ない方は、近況報告の代わりにお読み頂けましたら幸いです。興味があって参加可能な方は、遠慮なくご参加下さい。どなたでも大歓迎です(参加無料、事前登録なし、保険証不要)。ただし、お茶等のサービスもありません。悪しからず。

案内:第239回(16-01)済生会新潟第二病院眼科勉強会

演題:「パラドックス的人生」
講師:上林明(新潟市)
日時:平成28年1月13日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院眼科外来
http://andonoburo.net/on/4266

抄録

 皆さんは、ご自分の人間としてのもっとも最初の記憶は、何歳くらいのどんな事柄かお思い出すことができるでしょうか?私にとっては、厳密には人生最先端とは言い難いのですが、5歳3か月、1949年9月16日未明に起きた、戸数48軒の集落の内、44軒がほぼ全焼に嘗め尽くされた大火災から、人生が始まったと言っても過言ではありません。

 真夜中なのに真昼のような明るさの炎、逃げ惑う人々の狂気の叫びと持ち出した家財の投下。漁村なるが故の船舶用燃料用ドラム缶の破裂による大音響と空高く燃え上がる火柱と炎熱地獄。それはそれは恐ろしい記憶ですが、本当の苦しみはその日以降に私の家族と私に襲い掛かってくる数々の難問と差別(東北地方の当時の障碍者差別は想像を絶するものがあった)に押し潰されそうな人生の始まりであり、その後の私の生き方に大きな教訓と示唆を与えてくれたものと思っています。

 生来勉強と努力が私に馴染んでくれなかったことで、理想や夢の大半を実現できないままに終盤の人生を迎えているのが実情です。ただ、渡辺和子先生は「置かれた場所で咲きなさい」と説かれましたが、誰かに連れてこられ、置かれた場所で安穏に暮らす視覚障碍者暮らしだけで終わりたくはない。むしろ私の趣味、吟詠の一説に「丈夫は玉砕するも甎全を恥ず」とありますが、晴眼者、障碍者に関わらず、皆でともに発達しあい、喜び悲しみを分かち合いつつ生きて行きたいと念じつつ、それらを実現すべく「リーダーを目指して」をモットーに今日まで明るく楽しく歩んで来たと思っています。
*「丈夫は玉砕するも甎全を恥ず」丈夫玉碎恥甎全(西郷隆盛)~立派な男子は、節義を守って死ぬことであって、つまらぬものとなって安全に生き残ることではない。

略歴

1944年、山形県西田川郡加茂町(現鶴岡市)の小さな漁業集落に、視力障害をもって生まれる。
1951年、山形県立鶴岡盲学校小学部入学。60年県立新潟盲学校高等部入学・65年卒。
1963年、按摩・マッサージ・指圧師免許、65年鍼師・灸師免許取得。同年柏崎市の植木治療院勤務。
1967年、新潟市山ノ下地区(現在地)に「上林鍼灸マッサージ治療院開業。94年より2年間(社)新潟県鍼灸マッサージ師会理事長。
1975年(昭和50年)、詩吟神風流に入門。現在詩吟神風流越水会会長。雅号「神天」県・市吟詠連盟理事。全吟連新潟県コンクール審査員。
 視覚障碍者山の会「新潟あいゆー山の会」会員。

ネット配信

 今回の勉強会の一部は、「新潟大学工学部渡辺研究室」と「新潟市障がい者ITサポートセンター」のご協力によりネット配信致します。以下のURLにアクセスして下さい。
http://www.ustream.tv/channel/niigata-saiseikai
 当日の視聴のみ可能です。当方では録画はしておりません。録画することは禁じておりませんが、個人的な使用のみにお願いします。

フィンゲルの仲間と取り組んだ出前授業

済生会新潟第二病院眼科勉強会の報告です。参加できない方も、近況報告の代わりに読んで頂けましたら幸いです。

報告:第238回(15-12)済生会新潟第二病院眼科勉強会 田中正四

演題:「フィンゲルの仲間と取り組んだ出前授業~工夫を重ねて子供たちの心をキャッチ~」
講師:田中正四(胎内市)
日時:平成27年12月02日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/4249

講演要約

 私の所属する(新発田音声パソコン フィンゲル)は、1996年に寄贈された1台のデスクトップパソコンと五名の視覚障がい者と五名のボランティアスタッフにより音声ワープロ教室としてスタートした。

 翌年には、市内のサマーキャンプ・フェスティバルに参加し、障がい者理解の浸透を目的に学校訪問を精力的に取り組み、同年には、市内の商業高校の文化祭にて、音声パソコンによるデモ実演を成功させるに至った。以来、今日まで地域の小・中学校を主とした学校訪問を(出前授業)と称して継続してきたが、歴史の長さと共に近年では諸問題に直面する事となった。

 今回私の報告は、その歴史と先輩諸氏の努力により築き上げた(出前授業)の変化と、地域独特の活動の困難を乗り越え、さらには、ボランティアスタッフの減少の中で、障がい者自から取り組んだ数々の工夫と改革の一例を紹介するものである。

 その改革は、2012年に永年私達のスタッフとして指導や運営を担っていただいたスタッフの退会により、(出前授業)の依頼の日程調整から、授業内容の決定、メンバーの構成と時間配分にいたるまで、私達障がい者の手で立案し、実践する事となったのである。(出前授業)では、視覚障害の解説や、日常生活の様子、白杖や盲導犬の有効性などが主な内容であるが、小、中学校の子供たちに障害の理解と工夫や努力を伝えるためには、作文を読むような内容では、理解されない。回数を重ね、反省と改善により、毎回の(出前授業)では、アイディアいっぱいの説明が聞かれるようになった。

 私は会社務め時代に学び得た(計画・実行・確認・改善)のサイクルを繰り返す事の重要性を再認識させられた。そんな仲間達の改善例を紹介したい。
 その1)子供達を集中させるために、ゲームやクイズで声を出させ、体を動かして、やわらかな雰囲気を作る。しかし、このゲームやクイズは、答えの中に視覚障害に対する思いや声かけの必要性、又、覚えてほしい事などを織り込むのである。
 その2)家庭生活の様子では、いかに上手に料理ができるかの説明だけではなく、(少しくらい大きさが異なっていても、口の中に入れれば、おんなじ食べ物ヨ。)
と、障害であるために時には、寛容な考え方もしなくてはならない事を理解させる。
 その3)音声パソコンを指導する仲間は、あえて画面をクローズし、音声を聞いて文字を聴きとらせ、簡単な文章を完成させる。必ず2~3人のグループで構成し、数回の予習復讐ができるように工夫を加える。
 その4)白杖、盲導犬の解説では、その有効性に加え、思わぬ危険性やお願い事項を織り込んで説明する。例えば、白杖での歩行時のヒヤリ体験や(盲導犬は、信号
の色が判断できない)などと、安全確保の重要性や意外な事などを紹介するのである。
 その5)視覚障害の説明では、小学校の高学年や中学生には、統計的数字を加えた説明を行い、印象深い説明を心がける事ができた。

 さらに、今年から取り組んだ事として、障害経験の浅い会員にも(出前授業)に参加していただいた。経験の浅い人の苦労話や、失敗談が子供たちに視覚障害をより理解して貰えると考えたのである。もちろん、本人と家族の了解のもと同意を得て、奥様にも同席していただいた。(階段で転倒した事・食事のおかずを全てご飯に乗せてドンブリ飯にした)と失敗や食事の楽しみを失った事を説明し、奥様からは、(階段を腕を組み、数えながら一緒に上った。仕切りのある食器を用意して、時計方向におかずを説明した。)などと家族の工夫を話していただき、私達も初心に帰った思いであったし、子供たちには当事者と、家族や周囲の協力、そして、本人の努力が重要である事を教える事が出来たと考える。

 現在、次年度の目標も検討中である。現在ブラインド体験や、誘導歩行の説明を晴眼者にお願いしているが、説明解説を私達自身で実践したい。又ブラインド折り紙などにより、その困難性やカン・コツをポイントで説明できないもか検討中である。さらには、盲導犬のスーツ・ハーネス等の意味や必要性、加えて補助犬法についても解りやすい解説ができたらと考えている。

 フィンゲルの(出前授業)のカリキュラムは多種であるが、学校や地域の求めに応じてさらに可変的に対応したいものである。今回の私の報告内容は、決してめずらしいものではないが、参加していただいた方や、読んでいただいた皆様の参考になればと願うものです。

略歴

1952年 長岡市(旧越路町)生まれ
1968年 日立制作所入所
2003年 腎不全により透析開始
2007年 視覚障害1級
2007年 日立製作所退社
2010年 盲導犬貸与される

後記

 盲導犬が5頭参加しての勉強会。何よりも、田中さんお話を聞いている時の参加者の楽しそうな笑顔が印象的でした。
 いつも田中さんは、つかみが上手い。今回の講演はこんな小噺から始まりました。「以前、初孫が大きくなったらおじいちゃんの眼を治してあげると言っていたが、今は断念したようだ。そのかわり二人目の孫が、将来は消防士になりたいと言い出した。「消防士になるなら、イッパイ勉強しないといけないよ」と言ったら、『消防士になれなかったら医者になる』と言っています。」
 今回のお話で、障がい者理解の浸透を目的に学校訪問を、自ら工夫を重ねて精力的に取り組んでおられていることを知りました。素晴らしい活動です。応援していきたいと思います。

「学問のすすめ」第10回講演会 済生会新潟第二病院眼科

案内:「学問のすすめ」第10回講演会 済生会新潟第二病院眼科
日時:2016年1月23日(土) 14時半開場 15時~18時
会場:済生会新潟第二病院 10階会議室
要事前登録

「学問のすすめ」講演会は済生会新潟第二病院眼科で2010年2月より開始した企画です。若い医師とそれを支える指導者に、夢と希望を持って学問そして臨床に励んでもらおうと始めました。
 第10回講演会を予定しました。講師の先生には、若い人へのメッセージを添えて、取り組んでこられた研究テーマを中心に、これまでの学究生活について自叙伝風に語って頂きます。
 どなたでも参加できます。多くの皆様の参加をお待ちしております。

タイムスケジュール

「学問のすすめ」第10回講演会 済生会新潟第二病院眼科
15時〜
座長:長谷部 日(新潟大学医学部眼科)
演題1:「好きこそものの上手なれ;Tell it like it is !」
講師 門之園 一明(横浜市立大学教授)
http://andonoburo.net/on/4223

16時半〜
座長 安藤伸朗(済生会新潟第二病院眼科)
演題2:「医療における心」
講師:出田 秀尚(出田眼科名誉院長)
http://andonoburo.net/on/4243

19時 終了

事前登録制

参加費は無料ですが、会場準備の都合もあり、事前登録制(締切1月15日)です。参加希望の方は下記の要領で申し込み下さい。

事前登録

「学問のすすめ」第10回講演会 済生会新潟第二病院
 申込期間期限 平成28年01月15日(金)
 申し込み先:済生会新潟第二病院眼科 安藤伸朗
 e-mail:gankando@sweet.ocn.ne.jp
 Fax:025-233-6220

参加申し込み

「学問のすすめ」第10回講演会 済生会新潟第二病院
  氏名~
  所属(勤務先)~
  職業~
 住所(都道府県名と市町村名のみお願いします)
 連絡方法(可能な限り、メールでの連絡先をお願い致します)
  e-mail アドレス~
   Fax番号~
****************************************************
注:専門の職員はおりません。電話でのお問い合わせには応じることが出来ません。お問い合わせ等は、メールでお願い致します。

天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず

 福沢諭吉の「学問のすすめ」の一説としてあまりに有名ですが、本当に意味するところは以下の通りです。
 人は生まれながら貴賎上下の差別ない。けれども今広くこの人間世界を見渡すと、賢い人愚かな人貧乏な人金持ちの人身分の高い人低い人とある。その違いは何だろう?。それは甚だ明らかだ。賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとに由ってできるものなのだ。
 人は生まれながらにして貴賎上下の別はないけれどただ学問を勤めて物事をよく知るものは貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるのだ。

高次脳機能障害と向き合う ~神経心理ピラミッドを用いたホリスティック・アプローチ~

報告:『済生会新潟第二病院眼科公開講座 治療とリハビリ』立神粧子(フェリス)

 眼の愛護デー(10月10日)に、8都府県から眼科医・内科医・神経内科医・リハビリ医・麻酔医やリハビリ関係者・教育者・当事者等々、約60名が参加し、済生会新潟第二病院10階会議室で公開講座「治療とリハビリ」を行いました。
 今回、立神粧子先生(フェリス女学院大学教授)の講演要約を参加者の感想と共に紹介します。

特別講演3:「高次脳機能障害と向き合う~神経心理ピラミッドを用いたホリスティック・アプローチ~」講師:立神粧子(フェリス女学院大学教授)
http://andonoburo.net/on/4141

講演要約

 2001年の秋に重篤なくも膜下出血で倒れた夫はコイル塞栓術、脳室ドレナージ術、V?Pシャント術を受け、命は助かったものの脳損傷(高次脳機能障害)が残存した。2004年の春から1年間、New York大学の「Rusk研究所脳損傷通院プログラム」に通い、日本ではなかなか改善できなかった諸症状が劇的に改善した。Ruskの通院プログラムは認知機能の神経心理ピラミッドを訓練の核として用いる脳損傷者のための機能回復プログラムで、その療法哲学は自己の再構築という目的を持つ全人的なものである。

 脳損傷Brain Injuryは、交通事故や脳卒中等の後遺症による器質性の問題で、主に前頭葉の認知機能不全のことをさす。Rusk脳損傷通院プログラムは「環境を適正に構造化できれば、患者は状況に応じた能力が発揮できる」というGoldstein博士の理念を基盤としている。リハビリ医療は身体的な機能回復ばかりでなく認知機能の回復訓練として、脳損傷者に「安全な実験室」(=訓練の場)を提供し、自己の欠損について理解させ、患者自身が欠損の補填戦略を使ってできるだけスムーズな日常生活を送れるよう実践的に導くことを、訓練の目的としている。

 Ruskでは患者を「訓練生」と呼ぶ。医師から処方された薬をもらう受動的な患者ではなく、訓練を受けて日常で機能するための様々な技術を習得し、自らが人生を切り開く主体的な意識を持たせるためである。Ruskの療法的環境は、訓練生とスタッフを中心に、訓練を修了したピアカウンセラー、そして家族(または重要な知人)で成り立つ。この4者が互いに関係し合いコミュニティを形作り、訓練後の社会を想定した様々な場面に対応するための実験的な研究の場となる。

 訓練所の1週間は月曜日から木曜日まで、毎朝10時から午後3時まで決まったスケジュールで構成されている。Ⅰ.症状を確認する「オリエンテーション」、Ⅱ.人前でのコミュニケーションを学ぶ「対人セッション」、Ⅲ.オーダーメイドの認知訓練と気づきやロールプレイ・確認の技などのワークショップが行われる「認知訓練」、そして、Ⅳ.一日の終わりに質問に答え人の意見を聞く「交流セッション」の4つである。この他に、訓練生と家族にそれぞれ週1時間ずつ「個人カウンセリング」と「家族セッション」がある。そのどれもが、スタッフにとっては重要な情報源となり、また家族にとっては、症状の学びと、コーチングの技術の学びの時間となる。また、Ruskと日常生活をつなぐための学びが行われるのもこれらの時間である。訓練生と家族のそれぞれの問題に対する戦略と準備が、すべての訓練に有機的に組み込まれていることがRuskのプログラムの圧倒的にすごいところである。一日の訓練の流れを繰り返すことに深い意味を持たせ、1週間、1ヶ月、1サイクル・・・と、訓練の中身を最適化させながら変えていく。

 Ruskの訓練は「認知機能の神経心理ピラミッド」という図表を中心に行われる。ピラミッドの各層は9層あり、最下層から、1.「リハビリに自ら取り組む意欲」、2.「覚醒」「(注意)厳戒体勢」「心的エネルギー」、3.「発動性」・「制御」、4.「注意と集中」、5.「情報処理とコミュニケーション」、6.「記憶」、7.「遂行機能」・「論理的思考力」、8.「受容」、9.「自己同一性」と描かれている。2に問題が生じると【神経疲労】、3の発動性に問題が生じると【無気力症】、感情の制御の問題は【抑制困難症】の症状を引き起こす。例えば神経疲労を起こすと、下から7番目の遂行機能を使って何か高度な行動をしていても突然機能しなくなる、というようなことが起こる。認知機能の働き方がピラミッド型であるのは、下位の機能がきちんと働いていないと上位の機能はうまく働かない、そしてピラミッドの上に行くほど「気づき」や「理解」は進み、機能が下がればそれらは一気に下降するということを示している。下位の諸機能が基盤として働くためには、自らの症状に対して予防し戦略を使って行動する必要がある。Ruskでは症状のひとw)EUR「弔劼箸昼u桙ノ10以上の補填戦略があり、これを訓練生と家族は、理論的にも実践的にも学ぶ。Ruskでは関係する医学分野の他にも神経心理学や教育心理学などの理論的な裏付けのもと、すべての訓練や日常生活における訓練と連動させて、戦略の実践を習慣化するまで練習、習得させる。Ruskの訓練後に訓練生たちが社会の中で機能できるように全人的な視点から構造化された集中強化訓練である。

 脳損傷者は外から見て普通でも、その日常は記憶の障害や情報処理の問題などにより困難に満ちている。戦略を使うこと自体、記憶の問題で継続できないので、周囲の支援を得ながら機能できる環境を整える,というのが重要なポイントになる。そのため、家族がホームコーチとなり、Ruskでの訓練のように、ポイントを絞って一定期間のゴールなどを設定して、訓練の延長で生活を支援すれば、訓練生はかなりの能力を発揮できるようになる。コーチングはサンドイッチ効果(+?+)が大事で、改善してほしいことをうまくいっていることに挟み込んでコメントすると効果が高まる。また、ポジティブ・フィードバックが大切で、良いことをできるだけ具体的に指摘することが大切である。そのためには家族も症状の正しい知識や戦略の使い方を学ぶ必要がある。訓練所で家族がスタッフの仕事ぶりを学び、カウンセリングや家族セッションで症状や対応の教育を受けることは大いに意味がある。

 Rusk脳損傷者のリハビリ訓練から、私自身、前頭葉の機能の働き方や、コーチングの意味を学んだ。家族の学びは医療機関に頼りがちな患者の家族の意識をも変える。患者が「自分で自分を取り戻す」ことがどんな問題の時もリハビリの最終ゴールなのではないか。その力を身につけるために学ぶべきことは多いが、ひとたび基盤を身につけると、何かと応用がきき難局も乗り越える力が身につく。Ruskのプログラムの責任者だったベニーシャイ博士から、「粧子、すぐに一喜一憂せず、焦らず忍耐力を養いなさい。一歩一歩が大切」と教えられた。患者自身にも環境や周囲の人との新しい関係性への適応力・順応性が必要だが、家族も変化を受容する勇気が必要である。患者と家族の双方が、障害を得た新しい自分(相手)の幸せのために、自己を再構築して更なる人生を生きてゆきたいものである。

略歴

1981年 東京芸術大学音楽学部卒業
1984年 国際ロータリー財団奨学生として渡米
1988年 シカゴ大学大学院修了(芸術学修士号)
1991年 南カリフォルニア大学大学院修了(音楽芸術博士号)
2004-05年 NY大学医療センターRusk研究所にて脳損傷者の通院プログラムに参加
      治療体験記を『総合リハビリテーション』(2006)に連載。
2010年 『前頭葉機能不全その先の戦略』(立神粧子著;医学書院)
       現在:フェリス女学院大学音楽学部音楽芸術学科教授、音楽学部長

参加者から

●中枢神経が障害された場合の回復は可能だろうか?リハビリにいい方法はないのだろうか?くも膜下出血で数年間、表情も感情もなく,無反応で無気力だったところから、ニューヨークRusk研究所のプログラムで一年間訓練を受け回復した経験をお話頂いた。神経学的にどのような回復をたどったのか、興味深いところである。治療やリハビリを、病院・施設を主体に考えると見方(評価)が短期的になってしまう。病は一生もの、治療(訓練)も一生もののはず。家族と共に歩む治療の重要性を再認識。コーチングの技(sweet & short)、広く使えそうだ。(新潟市/眼科医/男性)

●立神先生(小澤さん)ご夫妻とは、2011年に安藤先生が開催した「高次脳機能と視覚の重複障害を考える」というシンポジウムでもお会いしておりました。しかし、それよりもずっと前の2002年にも小澤さんを拝見しています。私が以前に勤めていた神奈川リハビリテーション病院でのことです。残念ながら私の記憶が怪しいのですが、奥様のお話ではご主人があまりに反応がないので見えていないのではないかと眼科を受診したとのことでした。当時の私の患者さんの1/3は見えない人、1/3は歩けない人、そしての残りの1/3はわからない人でした。小澤さんはその中の3番目にあたる患者さんでした。前回もしっかりしたなあと思いましたが、今回はさらにそう思いました。リハ病院では入院3ヶ月、通院3年でたいてい他の施設に移るのが常のようです。しかし、高次脳機能障害の方は、小澤さんのように10年以上かけて少しずつ良くなっていく方も稀ではないようです。期限を切るのがリハの性と思う中で、継続的なリハの重要性を改めて実感しました。いつまでも繋いでいるとリハ病院がパンクしてしまうというのもまた事実でして、急性期を終えてすぐの方をできるだけ多く診察するためには、現状の仕組みもやむを得ないのかなとも思います。その点で、立神先生ご夫妻が体験したRusk研究所のご家族にコーチ役をしていただくという方式は、退院後、通院終了後もリハが継続され、病院業務も圧迫せずに済むという理想型だなと感じました。また、質問のときにも取り上げましたが、通院訓練中の患者さんを「訓練生」と呼んでその自主性を自覚させるというあたりが、日本のリハに不足している部分ではないかと思いました。もちろんリハの現場では、自主性を無視しているわけではありません。もっと患者さん自身やご家族にその自覚を促すことに力を入れるべきと思うのです。現在の医療においても「赤ひげ」の時代の医師患者関係を望む向きが医者側にも患者側にもあり、それがすべて悪いとは言いませんが、この時代に見られた患者の依存心は、少なくともリハという文脈の中では患者の自立を阻害する要因なのではないかと思うのです。この自主性は、障害者権利条約の中にもリハは「あくまで自発的なものであって」とあることにも通じ、今後のリハ全体を考える上でも最重要の概念なのではないかと思いました。そういう観点からして、話は少し飛びますが、今後の視覚リハの方向性を考えるとき、既存の当事者団体はもちろんのこと、そういう団体に属していない患者さん自身からの情報発信とそれができるインフラ整備が不可欠なのではないかと思います。(埼玉県/眼科医/男性)

●リハビリのプログラム、方法論が非常に大事で、日本でも早く確立して欲しいと思いました。立神先生の愛が非常に大きな役割を果たしたことは間違いありませんが、機能的・器質的にどのような変化が小沢さんの頭のなかで起こったのだろうと理系的な思いも浮かびました。(新潟市/眼科医/男性)

●普段お聞きできない分野で、貴重な体験でした。日本で、なぜこのようなプログラムができていないのか、日本の医療の中のリハビリの地位の低さ、効率の悪さを考えさせられました。(大阪市/眼科医/女性)

●バイリンガルでいらしたり、プロになられるまでの楽器の反復練習を継続されているという能力あるいは習慣をお持ちということで、リハビリのスタート時点から、とてもレベルが高くいらしたのだろうなと思いました。(新潟市/眼科医/女性)

●立神先生のご著手は、購入していました。ご夫妻の葛藤は、凄まじいものが有ったと思います。私自身も一時は「高次脳機能障害」の疑いをもたれ家内との間で凄い葛藤がありました。「NY行く前に…高次脳機能障害の症状」此れ未だに全て当てはまります。他人事ではなく、私と家内の両方が「鬱状態」となり…ました。毎年此の時期
になると、病院から退院(脱出?)の日を思い出しています。主治医に勧められた「チャリ」此れも自身では、リハビリの一環としています。「病は一生もの、治療(訓練)も一生もののはずですから」中々出来る事ではありませんが、私たち夫婦も可能な限り頑張ってみます。(新潟市/会社員/男性)

●ー人を愛することって素晴らしい事ですね.(新潟県/眼科医/女性)

●Rusk訓練は説得力抜群、ただ、事前に、どこまで回復可能かを予測した科学的方法論を知りたくおもいました。(新潟市/眼科医/男性)

●ベースにご夫婦の愛があって、ご主人を、尊重してやっていらっしゃったからいい結果につながったのだと感じました。(新潟市/神経内科医/女性)

●高次脳機能のリハビリのお話も、感激と共に脱帽ですね。これほどに完璧に取り組み、成果を挙げていることは、私たちは是非学び、新潟でもシステムを組み、実行する必要性を感じました。(新潟市/内科医/男性)

●無気力症の方のリハビリは本当に難しいのですが、ご主人は新しいステージに進もうとされているのかなと思いました。原則的に進行性ではないという高次脳機能障害の障害特性から、立神先生のように対応すれば「今が最低、上向き人生」にできるのではないかと思います。私たち素人の指導員はそれを信じて関わっていきたいです。勇気を頂きました。ありがとうございました。(京都市/生活訓練指導士/男性)

●本来なら人生に挫折してしまいそうな境遇、場面を先生とご主人の地道な治療の継続と努力 そしてお互いを思いやる気持ちがあってこそのリハビリの姿に感動いたしました。(新潟市/薬品メーカー/男性)

●私自身、この業界に身を置く以前、認知症介護施設で勤務していた事もあり、その当時の記憶も相まって、心に響くご講演でした。正直、高次脳機能障害の方があそこまで回復している姿は大変驚きで、その裏では、エビデンスとロジックに基づいたとても大変なリハビリがあり、その賜物であるという事がよくわかりました。 ラスクのリハビリ法も、患者様によって症状が異なる為 それに合わせたリハビリを行う必要を説いてらっしゃいましたが、 患者様のリハビリと同等以上に、ご家族の訓練が重要な事もよく理解できました。 まさにその答えが小澤氏その物かと思いますので、とても中身の濃いご講演でした。(新潟市/薬品メーカー/男性)

iPS細胞による眼疾患治療の現状と未来

報告:『済生会新潟第二病院眼科公開講座 治療とリハビリ』 高橋政代(理研)

 眼の愛護デー(10月10日)に、8都府県から眼科医・内科医・神経内科医・リハビリ医・麻酔医やリハビリ関係者・教育者・当事者等々、約60名が参加し、済生会新潟第二病院10階会議室で公開講座「治療とリハビリ」を行いました。
 今回、高橋政代先生(理化学研究所CDB)の講演要約を参加者の感想と共に紹介します。

特別講演2:「iPS細胞による眼疾患治療の現状と未来」

講師:高橋政代(理化学研究所CDB 網膜再生医療研究開発プロジェクト)
http://andonoburo.net/on/4133

講演要約

 2013年8月に初めてのiPS細胞を用いた移植臨床研究が承認を得て、1例目の手術は2014年9月に施行された。2006年にマウスiPS細胞、2007年にヒトiPS細胞が発明されてから驚くほど短期間での臨床応用と言われる。しかし、今回の臨床研究の準備はすでに10年以上前からES細胞を用いて、網膜細胞治療という構想からいうと20年前からスタートしていた。基礎研究からヒトに応用するまでにはやはりそれだけの年月が必要である。研究を進めている期間に様々な否定的意見を聞いたが、網膜細胞治療の最終像を考えるとそれらは論理的に心動かされ方針を変更させるものではなかった。

 我々のラボにフィールドワーク(!)に来て研究者という人種を研究している人類学者に言わせると、高橋は過去、現在、未来の順で考える思考と異なり、未来像から遡って現在を考えるという思考法だそうだ。再生医療ができることが自明のように語る私と他の人と話が合わないのがなぜかずっと不思議であったが、とんと合点がいったような気がする。

 今回の臨床研究では自家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)細胞シートを移植し手術後1年間で結果を判定する。移植する細胞シートは様々な品質検査や免疫不全マウスを用いて繰り返し行った造腫瘍性試験で安全性が確認された。現在手術後1年の判定期間が終了したが、主要評価項目の安全性については、拒絶反応、腫瘍化、手術による重篤な合併症などを認めず順調に経過している。世界ではiPS細胞を使った治療は主要ができるのではないか、自分の細胞を使う自家移植であっても培養の期間に変化がおきて拒絶反応がおこるのではないか、などの懸念を持つ研究者がほとんどであるが、1例ではあるが、それが杞憂であることを示した。絶対に失敗できないプロジェクトであったので、リスクは考え尽くしてあり、1例目は視力の経過や患者の反応まで含めて予想通りであった。2例目3例目も同様であると考える。

 再生医療の問題の一つはその言葉からもたらされる過剰な期待である。再生医療(細胞移植治療)はまったく新しい治療であり最初は効果も小さい。治療の効果と安全性の進歩のシグモイド曲線は白内障手術などで眼科医は経験ずみである。再生医療も同様で、改良を重ねて徐々に効果的な治療となることが考えられるが、それらの正しい情報はなかなか一般に伝わりにくい。今回の臨床研究では網膜感度上昇などの効果判定は副次項目であるが、過剰な期待は治癒が唯一の問題解決法であるという思い込みから来ることが多い。特に網膜の場合は成功してもまだまだ視機能は低く停まることが考えられ、再生医療はリハビリテーション(ロービジョンケア)とセットで完成すると言える。再生医療は網膜以外でも同じでリハビリテーションとセットであること認知されてきている。今後は、臨床研究、先進医療、治験、治療、リハビリ、患者ケアが一体となったメディカルセンターが求められる。

 我々は、神戸にそれらを包括したアイセンターを構築しようと計画している。アイセンターは先端医療センターの眼科専門病院、理研の研究部門、ロービジョンケアと社会実験のための公益社団法人NEXT VISIONの3者が協力して運営する。再生医療の高い認知度を利用して、視覚障害に対する一般社会の理解を高めることができることが可能かもしれない。そのために作ったNEXT VISIONでは、ロービジョンケアや視覚障害のイメージ変革と推進、デバイスの開発や社会実験を行う。日本で歴史も古く充実している全盲者に対するケアとは異なり、眼科医が日々接するのにケアが抜け落ちている軽度の視覚障害、就労を続けられるのに諦めてしまう人々を主に対象にして、企業、産業医、眼科医、しいては支援施設、当事者においても視覚障害に対するイメージを変革することが必要であり、可能かもしれないと考えている。

略歴

1986    京都大学医学部卒業
1986-1987 京都大学医学部附属病院眼科 研修医
1987-1988 関西電力病院眼科 研修医
1992    京都大学大学院医学研究科博士課程(視覚病態学)修了
1992-1994 京都大学医学部附属病院眼科 助手
1995-1996 アメリカ・サンディエゴ ソーク研究所研究員
1997-2001 京都大学医学部附属病院眼科 助手
2001-2006 京都大学医学部附属病院探索医療センター開発部 助教授
2006-2012 理化学研究所  発生・再生科学総合研究センター
   網膜再生医療研究チーム チームリーダー兼任(2006年10月より専任)
2012-2014 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
   網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー(*)
2014-現在 理化学研究所 多細胞システム形成研究センター
   網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー(*)
      (*)組織改正により変更

参加者から

●iPS細胞を移植する再生医療が、世界で初めてわが国で臨床治験された。最初の臨床治験が行われてから1年の臨床経過を示してもらった。今後は、F1カー(個別のiPS細胞)ばかりでなく、カローラ(iPS細胞バンク)も用意するという。治療選択肢が増えるのはいい進歩。診療・研究・リハビリを兼ねた「アイセンター」構想が、より具体化している。企業の方も参加し戦略として進めているという。もはや医学医療を飛び越えたスケールのでかいお話でした。現在の閉塞した医療の現実を考える時、新しい医療の形を示す「アイセンター」構想の実現を願います。(新潟市/眼科医/男性)

●いつ拝聴しても凄いとしか言い様がありません。本当の意味での【アイセンター】が実現すれば素晴らしいと考えています。其の為には、行政を逆手に取っておられると感じました。講演後に某名誉教授曰く、「色々な女傑を見てきたが、彼女が一番だね」。(新潟市/医療機器販売/男性)

●iPSの現状と将来への展望がわかり興味深かったです。(新潟市/眼科医/男性)

●とても興味深いものでした。 たまたま、前はやぶさプロジェクトマネージャーの川口という人の話をみかけたのですが、彼はプロジェクトで大切なのは、100点を目指さないこと、60点を100%の確率で実現することと語っています。また、心配していたことがおきてしまうのは、3流、予想もしていなかったことが起きてしまうのは二流、一流とは、何もおきないことといいます。高橋先生が治療に使われたもののサイズがそのままだったようにお聞きしたことが、この何もおきないことなのかと思いました。川口氏は、研究ではなくプロジェクトをやる、プロジェクトを進める上では、技術よりむしろ根性が大きな要素と言ってます。全くの雑談ですみません。大きな仕事をやられる方は、有能なプロデューサーなんだなあとたまたま同時期に感銘をうけたものですから。川口氏は、(安藤先生と同じ)青森県出身なのですね。(新潟市/眼科医/女性)

●視野の広さ、考えを行動に移すその速さバイタリティーに感服し、私の残された時間の中で、1症例を思い出して、なんとか助けてあげたい事をご相談し先端医療センター眼科の受診方法を教えていただきました。一人でも失明から救いたい想いの、今の私に有り難い貴重な時間でした。(新潟県/眼科医/女性)

●iPS細胞による治療法の前途について、大変分かりやすいものでした。講演の初めに、理研の研修生の一人の方が、チンパンジーの行動の研究をするようにスタッフの行動を観察し、それによると高橋先生が将来の理想形から物事を考える珍しいタイプであると言われた。しかしこれは企業的な発想では当たり前のこと、とおっしゃったことが印象深いものでした。最も刺激的だったことは、高橋先生のプロジェクトが二重にも三重にも多様な道を用意しておられることです。すべてが同じ方向を向いているが、多様なニーズに合わせて多様な選択肢を作っておられることは万全の準備が見通せていてリーダーとして素晴らしい発想と思いました。また、シートを入れる治療法と浮遊性の治療と、どんどん新しい治療が進んでいることを教えていただきました。ロービジョンのリハビリや就労についての展望も、患者さんの未来にとってより積極的な社会参加を促すだけでなく、社会にとっても人的財産の貴重な損失を免れることになり、大きな前進と思います。(神奈川県/音楽家/女性)

●この公開講座は設定がよく、学ぶところ多い。高橋政代氏の科学者としての計画性、実行性、将来性、すべてすばらしく、りっぱなもの。貴重な存在なるも、一般に期待されているのは病気をなおすことだけで、リハビリに深く思いを致していることが全然社会にはわかっていない。卑近なはなしですが、10月10日は目の愛護デーなのに、体育の日にすりかえられて、だれも目の愛護デーなど知らないのが現実。なさけないことだね。 Eye cennter構想が広く実現するには困難がおおいことと痛感。(新潟市/眼科医/男性)

●どんどん進化しているんですね。研究ばかりやっていらっしゃるのかと思ったら、ちゃんと患者さんもみて、患者さんの困っていることをちゃんと把握して、対策を考えていらっしゃって、すごいと思いました。(新潟市/神経内科医/女性)

●iPS細胞での治療もいろんな事を考えて慎重に進んでいることが分かり、頼もしくも思えたのですが、歯がゆくも思いました。そして、リハビリ、支援を考えて、トータルに医療をなしてゆく姿勢に、敬服です。(新潟市/内科医/男性)

●患者さんを中心とした眼科医療のありかたをトータルで考えられて研究されているというお話には感銘を受けました。(新潟県/眼科医/男性)

●講演後半に 公益財団法人 NEXT VISION のお話をされました。法人の存在は初耳だったので、さっそくネットで調べました。アイセンター構想は新鮮で、ワンストップ型の理想形ですが、事業化できればすばらしいと感じました。(新潟市/病院職員/男性)

●今や時の人である先生のご講演も最先端の医療を分かりやすく、お話いただきました。理想の目標をあらかじめ設定して、そこに様々な紆余曲折アプローチを繰り返し、最終的にゴールに到着する事に尊敬致しました。(新潟市/薬品メーカー社員/男性)

●まさに今最先端の再生医療の話と、さまざまな活動、またその裏側の研究の現状や高橋先生の実際の思いなど、テレビやマスコミなどでは伝わらない内容を直に拝聴できました。 特に、アイセンターの話は、眼科医、研究者というご側面もありながら、ロービジョンケア全体を大局的に見た長期ビジョンをお持ちで、それを展開してく熱い思いが伝わってくる非常に感慨深いご講演でした。(新潟市/薬品メーカー社員/男性)

●自分も眼科メーカーの社員ということもあり、高橋先生の講演がとても印象に残りました。ES細胞、iPS細胞の違いという初歩的な内容から、なぜRPEを再生させ、1件目の手術としたかなど学ばせていただきました。また、普段は、どうしても臨床データ、基礎データに触れることが多い環境なので、基礎~ビジネスまでの流れをご紹介いただいたことに改めて製品の上市の難しさを実感できました。再生医療の場合は、さらに遺伝子学関係者、倫理関係者等が加わり、その難しさは想像できませんでした。大きな脚光を浴び、順風満帆な分野という印象しかなかったので、驚きました。(東京/医療機器メーカー/男性)

●私はiPS細胞の臨床応用が2例目でなぜ中止になったのか、どういう部分で疑問を持たれたのか、そこが知りたかったし一番興味があったところです。テクニカルなことよりも行政との関係であるようなお話でしたが、私の事前勉強が足りないせいで、あまりよく理解できませんでした。それでもiPS細胞由来のRPE細胞移植はがん化も含めて、やはり臨床応用できる安全レベルであること、さらに企業が参入して移植用の細胞を製造するコストまでを含めた実用化が進行していることなど、最先端で指揮している先生から直接お話を聴くことができて感謝しています。私は高橋先生のお話を聴くのは二回目ですが、前回と高橋先生の印象はずいぶん違いました。前回は世界を相手の学者といった感じで近寄りがたい雰囲気でしたが、今回は女性らしいやわらかさを感じました。それは、神戸医療産業都市アイセンター構想という、スマートサイトを集約するような、とてつもなく大きくて、やさしくて、あたたかいシステムのお話を聴いたせいかも知れません。ぜひ実現させてほしいし、そのための協力なら惜しみません。まぁ、私が協力できることなど無いでしょうが(笑)(新潟県/自営業/男性)

加齢黄斑変性治療の現状と課題

報告:『済生会新潟第二病院眼科公開講座:治療とリハビリ』五味文(住友病院)

 眼の愛護デー(10月10日)に、8都府県から眼科医・内科医・神経内科医・リハビリ医・麻酔医やリハビリ関係者・教育者・当事者等々、約60名が参加し、済生会新潟第二病院10階会議室で公開講座「治療とリハビリ」を行いました。
 今後、公開講座での講演要約と参加者からの感想を順次報告します。今回、五味文(住友病院)先生の講演要約をご紹介します。

特別講演1:「加齢黄斑変性治療の現状と課題」
講師:五味 文(住友病院)
http://andonoburo.net/on/4113

講演要約

 加齢黄斑変性といえば、以前は眼科医が手出しできない疾患であった。放っておくと視力が低下するのは明らかであるが、黄斑部網膜のその裏の病変に対して、正常組織を障害せずにアプローチをする方法はほぼ皆無で、たとえ網膜下の脈絡膜新生血管の抜去ができたとしても、長い目見ると色素上皮の萎縮は拡大し視力は低下してしまう。画期的かつ挑戦的な手術である黄斑移動術をもってしても、萎縮や網膜の回旋から来る不具合は、無視できるものではなかった。

 このような加齢黄斑変性に対して、画期的な薬剤がここ10年ほどの間に相次いで上梓されている。光線力学療法の際に用いる光感受性物質ビスダイン、抗VEGF薬であるマクジェン、ルセンティス、アイリーアなどである。診断機器、特に光干渉断層計(OCT)の進歩と相まって、抗VEGF薬の効果は広く認知されることとなり、急速に普
及した。繰り返し硝子体内に薬剤を注射で入れなければならないというハードルはあるものの、滲出性変化の減少と視力の向上といった薬剤の効果は絶大で、医師も患者も継続治療を受け入れている。

 その効果の陰で、病態の本質を見ずに漫然と治療を続けるという事態も起こっているような気がする。ノンレスポンダーやタキフィラキシーといった、薬の効果そのものがみられない状況であっても投与が続けられている場合は少なくない。そもそも抗VEGF薬では、どれだけ治療を続けたとしても、病気の本体である脈絡膜新生血管を消退させられていないことにもっと目を向けるべきであろう。

 一臨床医の抵抗として私が取り組んでいることは、一律なプロトコールで治療にあたるのではなく、個々の患者に踏み込んだ個別化医療である。造影やOCTといった検査所見から、抗VEGF療法一辺倒ではなく、それぞれの病態にもっとも有効と思われる治療方針を提案するとともに、治療後の所見の変化や、それぞれの患者の治療へのモチベーション、通院状況などを考慮に入れて、その先の治療プランも臨機応変に変えていくようにしている。特に、欧米人よりもアジア人においてより高い有用性が知ら
れている光線力学療法については、その有効性を積極的に取り入れていこうと、臨床研究を行っては情報発信を続けてきた。 欧米発の大規模臨床研究によって得られたEBMに配慮することはもちろん大事だが、従来からの日本の医療の流れである、医師の観察や経験を活かした医療というものもうまく組み込むべきだと考えている。

 このような治療方針が独りよがりのものとならないよう、患者側からのフィードバックは貴重である。継続して治療を受けている患者を対象としてアンケートを行ったところ、自身で抗VEGF療法の有効性を実感できている患者は約60%、自分では自覚はないものの医師から効果ありと言われ治療を続けているケースは30%であった。追加治療は、医師から受けた方がよいと言われたときのみ受けたいという回答が70%以上あり、再発を防ぐためには何度でも注射を受けたいという20%の患者を大きく上回った。注射の怖さ以外に、やはり治療が高額であることも、注射を避けたい要因となっていた。いつまで治療を続けないといけないのか、これから先も日常生活に支障なく見えるのかという不安を訴えるコメントも散見された。以上の結果から、多くの患者は現状の治療を受け入れ、結果には概ね満足されているものの、これから先も続く治療への不安は少なくなく、新たな治療への希望も少なくないことがわかった。

 そのような不安を取り除くことが、現状の加齢黄斑変性治療の課題であろう。ロービジョン指導や患者同士の意見交換の場の設定、社会制度への働きかけなど、医療者ができることは少なくなさそうである。個々の患者に適した、治療以外の手段も提案できるよう模索していきたい。

略歴

1989年 大阪大学医学部卒業
     大阪大学眼科入局
1990年 大阪労災病院眼科
1997年 大阪大学大学院入学
2001年 同上終了、大阪大学眼科助手
2006年 大阪大学眼科講師
2012年 住友病院眼科部長
2015年 大阪大学眼科招へい教授兼任
現在に至る

参加者から

●加齢黄斑変性はこれまで失明する疾患の代表例だった。現在では抗VEGF療法が登場し、多くの患者が良好な視機能を保てるようになってきた。その治療の実際を示し、治療費がかかること、すべての患者がよい視機能を保てるわけではないことに触れ、抗VEGF療法の有用性と限界を語って頂いた。特に、患者さんへのアンケート、大変興味深かった。治療について、医者からの評価ばかりでなく、患者さんからの評価も必要な時代になってきていると感じた。(新潟市/眼科医/男性)

●非常に判りやすく医療関係者でなくとも理解できたと思います。個人的に、此の治療は、患者の金銭的な負担が大きくてドロップアウトしているのが現状と考えています。友人も治療をしていますが、【治療を続ければある程度の視力は維持できるけど、金が続かない…】恐らくこれが本音だと思います。患者さんからのアンケートは、どの医療機関でも必要かと思います。(新潟市/医療機器販売/男性)

●実際の治療に役立つもので大変ためになりました。(新潟市/眼科医/男性)

●専門外の私にも納得できてAMDの患者さんにも色々説明してあげられるとおもいました.注射だけだと何時までやらなければならないかと常に聞かれますのでCASE by
 CASEいろいろの場合がありこんな方法もありと一緒に考えてあげることも一つのリハビリかなと考えさせられました。(新潟県/眼科医/女性)

●これほどきめ細かく治療をしていけば、視力をかなりたもっていけるのか、と医学は進歩しているんだな、と、素晴らしいと思いました。(新潟市/神経内科医/女性)

●加齢黄斑変性症の治療が進んでいることを嬉しく思いました。(新潟市/内科医/男性)

●お話は分かりやすく勉強になりました。脈絡膜新生血管は、必然性のある困りものだということが印象に残りました。ドルーゼンの根治を早期に望みます。(新潟市/病院職員/男性)

●永年にわたってのAMD治療のご経験、治療の最前線患者さんとのコミュニケーション、治療に対する満足度アンケートが大変勉強になりました。(新潟市/薬品メーカー/男性)

●基本的に患者様目線にたった、非常にわかりやすい表現を意識されていらっしゃり、色素上皮の病変の話や、多数の硝子体注をバリバリされているからこそ言えるメリットデメリットの話など、メーカー紐付きの講演会では聞けないような話も含め、大変勉強になりました。(新潟市/薬品メーカー/男性)

●五味先生に対して私がした質問は、治療とリハビリというテーマであるのに、ど素人が突拍子もない質問をして時間を潰し申し訳なく思っていますが、完治が望めない病気なら予防したいのが人情です。五味先生のご回答は医師としては模範的なものであったと思います。(でも、患者受けはしないかなぁ)

第5回 肝臓病セミナー開催報告

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平成27年11月7日(土)に「第5回 肝臓病セミナー」がユニゾンプラザで開催されました。「肝臓がんにならないために 〜今、知ってほしい最新の肝臓治療〜 」をテーマに、医師・薬剤師・栄養士・看護師の講義が行われ、161名の方々に参加して頂きました。元々は、病院内で年3回肝臓病教室を開催していたのですが、一般の方にも気軽に参加して頂けるように、また、肝臓病について多くの人に知ってもらいたいという思いから、1年に1回院外企画として、ユニゾンプラザで肝臓病セミナーを開催しています。同時に、同一会場で肝炎の無料検査を新潟県主催で行っています。セミナー開始前に採血をして頂けると、セミナー終了までに結果を聞くことができます。肝臓がんの主要な原因は、肝炎ウイルスの持続感染です。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、初期には自覚症状がほとんどありません。肝臓がんにならないために、まず自分が肝炎ウイルスに感染していないか調べていくことが大切です。
次回は、3月26日(土)当院で肝炎、肝硬変をテーマに肝臓病教室が行われる予定です。どなたでも参加できますので、興味のある方の参加お待ちしています。

(肝臓病教室運営メンバー一同)

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