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視覚障害者とスマホ・タブレット 2017

報告:第256(17-06)済生会新潟第二病院眼科勉強会 渡辺哲也

演題:「視覚障害者とスマホ・タブレット 2017」
講師: 渡辺哲也(新潟大学准教授:工学部 人間支援感性科学プログラム)
日時:平成29年06月14日(水)16:30 ~ 18:00
会場:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5967

 視覚障害は情報障害である。今や携帯電話・スマートホンは、全盲を含めた視覚障害者にも生活必需品である。今回の講演は、視覚障害者におけるデジタルデバイス(スマートホン・タブレット端末機器)の使用状況についてのレポートであった。大いに関心を呼んだ。渡辺先生は、2013年にも同様な調査をしており、今回は2017年度版で前回との比較も示して下さった。わが国でこのような報告は他になく、貴重な報告であった。

講演要約

1. はじめに
 厚生労働科研費を得て、視覚障害者のICT機器利用状況調査を実施した。今回の調査の主たる関心事は、スマートフォン・タブレットの利用率は上がったか、視覚障害者用のアプリはどのくらい使われているか、スマートフォン・タブレットにおける文字入力方法はどのようなものか、などである。

2. 調査の実施と回答状況
 調査の実施は、中途視覚障害者の雇用継続を支援するNPO法人タートルに委託した。タートルは、視覚障害者が主に参加する約50のメーリングリストで回答者を募集した。調査期間は2017年2月20日からの1ヶ月である。
 有効回答者は305人(男性192人、女性113人)、全員メールで回答をしており、情報機器を使い慣れている人たちである。障害等級は1級の人が最も多く208人(68.2%)、2級のヒトが69人(22.6%)だった。視覚的な文字の読み書きができるかどうかという質問に「できる」と答えた人をロービジョン、「できない」と答えた人を全盲とすると、ロービジョンの回答者が90人(全回答者の29.5%)、全盲の回答者が215人(同70.5%)だった。

3. ICT機器の利用率
 携帯電話(いわゆるガラケー)の利用率は全盲の人で60.9%、ロービジョンの人で54.4%だった。スマートフォンの利用率は全盲の人で52.1%、ロービジョンの人で55.6%だった。タブレットの利用率は全盲の人で14.4%、ロービジョンの人で38.9%だった。
 2013年に同様な調査をしたときの結果と比べると、全盲の人、ロービジョンの人ともに、スマートフォンの利用率が倍増した。タブレットの利用率はロービジョンの人では約2倍まで伸びたが、全盲の人では伸び率は1.5倍程度であった。他方で携帯電話の利用率は、2013年のとき全盲の人で85.8%、ロービジョンの人で73.7%だったのに比べると20%程度低下した。
 年齢別にスマートフォンと携帯電話の利用率を見ると、全盲の人、ロービジョンの人ともに、年代が下がるほどスマートフォンの利用率が高く、携帯電話の利用率が低い傾向が見られた。
 スマートフォンやタブレットを使い始めた理由としては、様々なアプリが使えて便利と、読み上げ機能が標準で付いていることが上位の回答となった。
 逆にこれらの機器を使わない理由としては、現状の機器で十分と、タッチ操作ができない、難しそうという回答が多かった。

4. 機種
 スマートフォン利用者157人(全盲の人107人、ロービジョンの人50人)に利用している機種を尋ねた。全盲の人、ロービジョンの人とも最も利用者が多かった機種はiPhoneで、全盲者の91.1%、ロービジョン者の80.0%が利用していた。Android端末の利用者数は全盲者で7人(16.3%)、ロービジョン者で9人(18.0%)と少なかった。全盲のらくらくスマートフォン利用者の数は4人(3.6%)に留まった。ロービジョン者でらくらくスマートフォンを利用する人はいなかった。2017年3月時点で、日本におけるiPhone利用率が45%であることと比較すると、視覚障害者のiPhone利用率は非常に高い。

5. アプリ
 スマートフォンで利用しているアプリを、全盲の人とロービジョンの人の回答を足し併せて多いものから並べると、通話、メール、時計、アドレス帳、電卓、歩数計、ブラウザ、スケジュール、写真を撮る、という順序になった。スマートフォンで使えるようになった便利な機能として、画像認識、光検出、GPS/地図/ナビゲーションなどがあるが, GPS/地図/ナビゲーションの利用者は全盲の人で20人足らずであり、利用者が多いとは言えなかった。

6. 文字入力
 スマートフォンにおける文字入力方法を詳細に尋ねた。文字入力手段としてソフトウェアキーボードの利用者数が、全盲の人とロービジョンの人の両方で最も多かった。全盲の人では、音声入力とハードウェアキーボードの利用者も多かった。
 ソフトウェアキーボードの種類としては日本語テンキー、ローマ字キーボード、50音キーボードがある。全盲の人ではローマ字キーボードと日本語テンキーの利用者が多く、それぞれの利用率は61.1%と55.8%であった。ロービジョンの人では日本語テンキーの利用者が最も多く、利用率は76.1%、ローマ字キーボードの利用率は大きく下がり39.1%だった。
 音声読み上げ(iPhoneではVoiceOver)をオンにすると、日本語テンキーにおける文字の選択・確定方法が変わり、ダブルタップ&フリック、ダブルタップ、スプリットタップなどのジェスチャが利用できるようになる。このうち、利用者が多かったのはスプリットタップとダブルタップであった。

7. 今後の仕事
 スマートフォン・タブレットの利用状況の詳細のほかに、携帯電話・パソコンの利用状況についても、今後データを整理し、公表していく。

略歴

1993年 北海道大学大学院工学研究科生体工学専攻修了
1994年から2001年 日本障害者雇用促進協会 障害者職業総合センター(Windows用スクリーンリーダ95Readerの開発ほかに従事)
2001年から2009年 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所(漢字の詳細読み「田町読み」の開発ほかに従事)
2001年から現在 国立大学法人 新潟大学工学部(触地図作成システムtmacsの開発ほかに従事)
併任で、筑波技術大学 非常勤講師、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院非常勤講師、NHK放送技術研究所 客員研究員

渡辺哲也先生の講演歴

渡辺先生には、これまで本勉強会で2度、第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会で一度講演して頂いています。
以下に、講演要約を記します。

1)第167回(10‐01月) 済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題:「視覚障害者と漢字」
講師:渡辺 哲也(新潟大学 工学部 福祉人間工学科)
日時:平成22年1月13日(水)16:30~18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5940

2)第205回(13‐03月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会
演題:「視覚障害者とスマートフォン」
講師:渡辺 哲也 (新潟大学 工学部 福祉人間工学科)
日時:平成25年3月13日(水)16:30 ~ 18:00
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5947

3)第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 講演要旨
特別企画『視覚障害者とスマートフォン』
講師:渡辺 哲也 (新潟大学工学部 福祉人間工学科)
日時:平成25年6月22日(土)
場所:チサンホテル&カンファレンスセンター新潟 越後の間
http://andonoburo.net/on/2218

参考資料

・新潟大学 工学部 福祉人間工学科渡辺研究室新潟大学 ホームページ
http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/
・視覚障害者のパソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査2007
http://vips.eng.niigata-u.ac.jp/…/Survey2…/Survey2007Jp.html
・視覚障害者の携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコン利用状況調査2013
http://dspace.lib.niigata-u.ac.jp/dspace/handle/10191/27807

後記

 視覚障害は情報障害である。携帯電話・スマートホンは、全盲を含めた視覚障害者にも今や生活必需品である。今回の講演は、視覚障害者におけるデジタルデバイス(スマートホン・タブレット端末機器)の使用状況についてであった。大いに関心を呼んだ。渡辺先生は、2013年にも同様な調査をしており、今回は2017年度版で前回との比較も示して下さった。わが国でこのような報告は他になく、貴重な報告であった。
・視覚障害者(全盲の人、ロービジョンの人ともに)は、スマートフォンの利用率が2013年と比較して倍増した。一方で携帯電話の利用率は低下した。
・視覚障害者のスマートホン利用率は、地域に指導者がいるかどうかに大いに左右されるというコメントにも説得力を感じた。
・画像認識やGPSが活用されているかと思いきや、実際はメール・ブラウザ・歩数計等の方が利用率が高かった。
 工学の成果を視覚障害者の情報に役立てようとしている渡辺研究室の研究を応援したい。そして目の不自由な方にとって便利で使いやすい情報機器がもっと発展することを願う。

地域包括ケアシステムってなに?

報告:第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会 斎川克之

演題:地域包括ケアシステムってなに?−新潟市における医療と介護の連携から−
講師:斎川 克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター副センター長 新潟市医師会在宅医療推進室室長)
日時:平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
会場:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5907

講演要約

■新潟市の概況
 政令指定都市新潟市の概況は、以下のとおりです。人口80万、65歳以上の高齢者27.5%、75歳以上の後期高齢者13.6% 地域包括支援センター27カ所、要介護者数40,000人。急速に高齢化が加速している状況であり、2025年には、人口約76万人、65歳以上の高齢者30.3%、75歳以上の後期高齢者17.2%と試算されています。

■医療機関について
 地域包括ケアシステムにおける医療の役割は極めて重要です。地域住民にとって最も身近で日々の健康相談含めたプライマリケアを担当してくださるのがクリニック・診療所です。初期診断と治療、そして場合によっては適切な病院への紹介など豊富な経験で地域の住民のかかりつけ医として機能を発揮します。また、関係機関にとっても地域住民にとっても圧倒的な信頼感と安心をあたえることのできる存在、それが病院です。病院にもいろいろな種別が存在します。大きくは4種類あり、高度急性期、急性期、回復期、慢性期です。それぞれの病院が機能と役割を果たしています。

■当院の概況
 当院は、新潟市西部にある425床の地域医療支援病院です。当院がある新潟市内は、高度急性期や専門性の高い医療を担う医療機関が集中している地区です。その中にあり、当院の強みはまさに地域からの信頼の指標である「連携」です。医療連携を柱としながらも、近年は地域の多職種連携を含む地域連携に対する取り組みを積極的に行ってきました。その最前線で機能を発揮する部署が、地域医療連携室・医療福祉相談室・がん相談支援室・訪問看護ステーションの4部署から成る地域連携福祉センターです。

■医療福祉相談について
 地域の方々にとって、最も知っていたきたい病院の窓口、それが医療福祉相談室、そして医療ソーシャルワーカーです。医療ソーシャルワーカーは、患者さんの病気の回復を妨げている色々な問題・悩みについて、本人(ご家族)と共に、主体的に解決していけるように相談に応じています。特に近年の急速な超高齢社会においては、退院支援の相談が最も多く、在宅での療養生活を見据えた丁寧な援助を行っています。

■地域の連携が強まるように
 他の医療機関から、いかにスムーズに紹介患者を受け、またその後に地域に帰すか。そこには地域からの強い信頼関係を基盤とした連携の仕組みがあればこそであり、院内だけの取り組みだけでは不十分です。自院だけでなく「地域力」をいかに高めることができるか、地域の全体最適を考える必要があります。地域の各医療機関が持つ医療資源やマンパワーを合わせて、最大限に個々のパフォーマンスを発揮できるようにするための「接着剤」が地域医療連携室の役割だと考えます。新潟市では、市内8区に在宅における多職種が連携を深める会である「在宅医療ネットワーク」が20団体あり、各職種の相互理解、課題解決へのアプローチなどそれぞれの取り組みを積極的に行っています。当院は、西区を対象に「にいがた西区地域連携ネットワーク」の事務局を担い、会の企画運営などを行っています。
 一方、介護保険法の地域支援事業には在宅医療・介護連携推進が大きく謳われております。そしてその推進の指標として(ア)から(ク)の項目を平成29年度中に実施すべきとされています。その中の1項目に「多職種連携の構築支援、関係機関からの相談窓口」があります。これを新潟市は、先に述べた在宅医療ネットワークの事務局を担ってきた病院の連携室に業務を委託する形をとり、名称を「新潟市在宅医療・介護連携ステーション」(以下連携ステーション)としました。またその連携ステーション11か所を束ねる役割として「新潟市在宅医療・介護連携センター」を新潟市医師会に委託しました。いわゆる在宅医療介護連携のノウハウを持ち合わせた病院の連携室に、この事業の最前線を委ねた結果となりました。地域住民の相談窓口である地域包括支援センターと連携ステーションの両輪が機能を発揮しているところが新潟市の大きな特徴です。

■地域包括ケアシステムとは
 地域包括ケアシステム構築の取り組みにおいて、近年、医療介護分野では目まぐるしく制度の変革が行われてきました。現在、全国の各市町村は主体的に、この地域包括ケアシステムの構築を進めています。これまで述べてきたように、新潟市においては、病院や診療所などの医療機関と介護・福祉の事業所などとの協力体制を強めてまいりました。今一度、地域包括ケアシステムとは何か。正直に言って「これ」と指を指せるものはありません。言葉で表現するならば、「地域のみなさんが、健康な時も、病気になった時も、どんな時も、今まで住み慣れた地域で安心して暮らすことのできるまちづくり・地域づくり」を根底とし、市区町村が中心となり、「住まい」を中心に「医療」「介護」「生活支援・介護予防」を包括的に体制整備していくこと。その実現のためには、医療と介護、そして福祉の途切れのない連携体制はもちろんのこと、ヘルスケアに関連するさまざなまな領域の方々、そしてもっとも主役となる地域の住民の方々との広い連携、そして参加できる場が最も重要となります。

略歴

斎川 克之(さいかわ かつゆき)
・社会福祉法人恩賜財団済生会 済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
・一般社団法人 新潟市医師会 在宅医療推進室 室長
職種:社会福祉士、医療ソーシャルワーカー、医療福祉連携士
平成 7年/新潟県厚生連・在宅介護支援センター栃尾郷病院SWとして就職
平成 9年/済生会新潟第二病院に医療社会事業課MSWとして就職
平成22年/地域医療連携室 室長
平成27年/地域連携福祉センター 副センター長
平成27年/新潟市医師会在宅医療推進室長 併任

後記

 斎川氏は当院ばかりでなく全国でも活躍している医療福祉支援の専門家。流石に非常にわかりやすく、しかも丁寧なお話でした。参加者の関心も高く、盛り上がった勉強会になりました。
 講演後のフリートークでは、「包括さん」には大変お世話になったなどの好意的な発言もありましたが、容赦のない発言・質問も炸裂。・「自分ファースト」の時代に共生社会を作ろうというのは、「絵に描いた餅」ではないか? ・医療介護連携の区割りが、病院ベースだ。町内会や小学校校区ベースがしっくりする。・学生からは、学生実習で南魚沼に行ってきたが、4世代家族の奥さんは生き生きしていた。新潟との違いを感じたとのコメントもありました。

 なんといっても印象的だったのは、斎川さんの非常に真摯な姿勢でした。ICTが流行っている世の中ですが、こうした人と人の触れ合いが物事を進めていくのだと、斎川さんを見て学びました。

 議論百出で終わりそうにない勉強会でしたが、こんなコメントで締めくくりました。「自分の健康や親の介護を人任せではなく、先ずは自分で考え、こういう包括システムを学ぼうということが大事ではないか。かつては「長男の嫁」が親の介護を担ってきた。しかし世界にも稀な長寿国となると、それも難しくなってきた。今、国は大きく体制を変えようとしているが、その実態は地方自治体に任されている。そんな状況下で、なんとか皆が上手く生きていこうという社会を作るために、多くの困難に立ち向かっている斎川さん達の活動を、私たちが支援したい。」

認定看護師による出前研修

当院は、地域医療支援病院として、質の高い医療の提供とあたたかく心ある地域医療連携推進を目指しています。その中で、地域の医療従事者を対象に、我々が保有する多分野の専門的知識を活用して、各施設のニーズにあった学習内容と機会を提供し、地域医療の発展に貢献していきたいと考え、認定看護師出前研修を企画しました。

研修名 認定看護師による出前研修
到達目標 地域の医療機関に勤務する看護・介護職員が、各施設のニーズに合った講義を受講することで、現場で活かせる知識を習得することができます。
対象者 当院と連携している新潟市西区医療機関で働く医療従事者としています。
研修形態 研修依頼を受けた分野の認定看護師が、依頼元に出張して研修を行います。
研修内容 各分野で別途企画します。
評価方法 1.研修内容については、「新たな知識を得た」「明日から実践に活かせる」等について研修後にアンケート調査を行います。アンケート結果は、当院で集計してお返ししますので、研修の評価としてご活用ください。
2.企画の評価については、研修担当者へ「申し込みの理由」「満足度」等についてアンケート調査を行います。
実施時間・期間 2017年9月~2018年3月の月~金曜日(当院休診日を除く)です。
研修場所 依頼元の指定場所になります。
経費 研修担当者間の通信費用、研修資料のコピー代は、ご負担していただきますが、交通費を含む講師謝礼等は不要です
その他 6月|案内文等の作成
7月|案内文を連携施設に発送
11月|本企画の中間評価
3月|本企画の最終評価

2017年度 緩和ケアナース講習の日程変更のお知らせ

ナース講習の日程変更がありましたのでお知らせいたします。ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします。

<緩和ケアナース講習Ⅰ>
変更前:2017年7月22日(土)9時〜16時30分
変更後:2017年8月5日(土)9時〜16時30分

<緩和ケアナース講習Ⅱ>
変更前:2017年8月19日(土)9時〜16時30分
変更後:2017年9月23日(土)9時〜16時30分

私たちの出前授業45×2

報告:第254回(17‐04月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会 小島紀代子 他

演題:「私たちの出前授業45×2 ~目の不自由な人の未来のために、子どもたちの“今”のために~」
講師:小島紀代子、小菅茂、入山豊次、吉井美恵子、三留五百枝
(NPO法人障害者自立支援センターオアシス)
日 時:平成29年04月12日(水)16:30 ~ 18:00
場 所:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5808

講演要旨

平成10年、「総合学習」が創設。地域の多様な立場の人と交流・体験を通し、「思いやりの心、生きる力」を育てる学びの場が地域に拓かれました。平成9年、オアシス主催「第1回学生、子どもたちのためのサマースクール」が、「目の不自由な人をもっと知ってもらうために」「誰もが誘導歩行できる社会に」を目指し開催、昨年20回を迎えました。

1.出前授業の変遷

 「見えない人の体験談・誘導歩行」の依頼を受け、双方が戸惑いながらの始まりでした。体育館で当事者が一人で語り、そのあと二人一組になり「誘導歩行体験」。子どもたちは、「見えないと怖~い。大変。だから道で会ったら助けようと思います。」の感想が大半でした。 
 私たちは、「総合学習」のあり方に疑問を感じ検討しました。・アイマスク体験は、怖い思いと「かわいそう」だけが残り、逆効果の恐れ。・ひとり語りは、特別な人に感じられ真の姿が届きにくい。そこで、①視覚障害者の全体像を伝えるために、「言葉」だけでなく「映像の力」を。②体験談は、一人語りからインタビュー形式に。③体験学習はグループ別に分けて行う 「誘導」、「機器や道具」、「弱視メガネ・白杖」。④障害者の差別偏見と「今」の子どもたちの問題から、『感じ・考える』授業に。

2.小学校4年生の最近の授業風景

1)~スライドを映しながら~
・視覚障害者の全体像(全盲・ロービジョン・中途・先天盲。見え方のいろいろ)。・オアシス物語(一人の自殺者と内科医師の取組み)。・目のリハビリテーション(こころのケア・歩行・調理・化粧・パソコン・機器・道具の訓練)。・オアシスの特徴(次の人のために教え合い、支え合う教室)

~目をつむっての体験~~
Q.もし君たちが見えなくなったらどんな気持ち?
A.隣の人がみえない、いやな気持ち。どこにいるかわからない、不安になる。
Q.見えなくなったら、何もできなくなるのかな?
・「みかんや物を触ってもらう」・・・他の感覚を使う。
・「自分の名前を書いてもらう」・・今までの経験の力を使う。

2)~インタビュー形式の語り~
当事者の以前の職業などを映し、子どもたちからスライドを説明してもらう。当事者の心の内をカミングアウトする。
Q.見えなくなって困ることは?
A.死にたくなった、つらかった、白杖が持てない、好きなこともある。元気になれたのはネ。
Q.見えなくなって、よかったことは?
A.「よいことなんか、ひとつもないけど、君たちに会えた」「小さいことにも感謝できる」「本当の仲間に出会えた」「パソコンができた」
@悲しみ・苦しみから、楽しみ、喜びなど、ありのままを真剣に語る当事者と聞く子どもたち。

3)~「パソコン・iPad・機器・道具」の紹介~
@子どもたちは、驚き、それを使い生活する当事者へ尊敬のまなざし。

4)~『考える』授業~
Q1.「もし、君たちのお父さん、お母さんが見えなくなって、白杖が持てないと言ったら?」
A.・僕が誘導するからいい。危ないから家族を説得する。オアシスに相談する。
・お父さんの誕生日に盲導犬をプレゼントする、それまでは仕方ない。
Q2.「もし君たちが見えなくなったら、白杖持てますか?」
A.(持ちたくないと答えた子)・だって見下されるから・恥ずかしいから・もちたくないから
(持つと答えた子)・仕方ないじゃん、生きていかなければならないから。
Q3.白杖と盲導犬だったら、どっち?
A.ひとりで歩くと淋しい、不安だから盲導犬を持つ・僕は白杖も盲導犬も持つ。
Q4.「点字ブロックは、車椅子の人には迷惑、視覚障害者には必要。どうしたらいいかな?」
A.「簡単じゃん・・・片方は車いす用に、もう片方は、点字ブロックを敷く。」

3.中学校 「いじめ」問題を意識しての授業

 重複障害で重い障害のAさんは、周囲に助けを求め仕事を継続。軽い障害のBさんは、周囲に助けを求めず隠していたため孤立化し仕事を辞めた。Aさんは「反対の立場だったら私も隠した」と。Bさんは、淡々と苦しみを語り、中学生も先生も共感!感じてもらえた授業。

4.最近の子どもたちの感想文

・白杖を持ちたくない気持ちが、すごーくわかりました。・目の不自由な人は、かわいそうではありません。普通の人と同じことができて凄い。・「目のリハビリ」があることにびっくりした。(多くの子どもたちからも)・調理したり、パソコン、アイパッド、携帯電話が使える。拡大読書器もすごいです。・目が不自由でも、楽しいことがあるということ。仲間が増え、パソコンができること。・ぼくは、差別しないと決めました。なんでもない人でも困っていたら、「どうしましたか?」って聞いて助けてあげます。・仕事のこと、いやな思い、見えなくなった時のショックなど、悲しい気持ちで聞きました。・話したくないことを話してくれた。感謝しています。強い人でした。・目の不自由な人が次の人に教えてあげる。気持の分かる人が教えるのはいいことです。

5・まとめ

 最後に、見えない人のハーモニカで力強く歌い、「ありがとう」と握手する子どもたち。まっすぐな心で感じ、聴いてくれた子どもたちが教えてくれました。
 「仕方ないじゃない・・生きていかなければだめだから」「僕は白杖も盲導犬も持つ」「私はデイズニーランドのキャスターになりたい。もし働くことになったら、不自由な人のために、いっぱいアイディアをだしたい」(4年女子)
 「出前授業45×2」は、私たちに「生きる勇気」を、未来に「希望」を感じさせる時間でした。

メンバー紹介

小島紀代子(事務局・相談員・視覚障害リハビリテーション外来)
小菅茂  (福祉機器普及員・テープ起こしワーク員)
入山豊次 (福祉機器普及員・グループセラピー・テープ起こしワーク員)
吉井美恵子(パソコン指導員・同行援護養成講座指導員・盲ろう者通訳介助員)
三留五百枝(フットケア&健康相談員・テープ起こしワーク員・看護師)

NPO法人障害者自立支援センターオアシスの紹介

1.「視覚障害リハビリ外来」1994年開設(月2回)
中央から視覚リハ専門の先生お2人と眼科医・内科医による、「就労・進学などの悩み相談」「移動・歩行のリハビリテーション」「拡大鏡・遮光眼鏡の選択、指導」「パソコン・iPad・拡大読書器」「日常生活用具」「福祉制度」の紹介と使い方指導等。
2.「日常生活訓練指導」~リハビリ外来と連携~(週4回)
「パソコン・機器の使い方指導」「調理・化粧教室」「転倒予防運動」等。
3.「こころのケア」
外来の先生方によるカウンセリング、「グループセラピー」「昼食会・カフェ」ほか。お茶やお話を楽しむ方、いろんな方たちとの交流の場を提供。
4.「地域社会貢献~地域の人と共に~」
「白杖・誘導歩行・転倒予防講習会」「サマースクール」「看護学生実習施設」「同行援護従業者養成講座」「出前授業」等。スタッフは眼科医・内科医、日常生活訓練士、元盲学校の先生、栄養士、看護師、保健師、MSW、機能訓練士他さまざまな職種の方、視覚障害者、その家族、ボランティア。

*「獲った魚を与えるよりも、魚の獲り方を教えよ」の精神で自立支援を行い23年。就労者の増加、「今」を受け止め明るく暮らす方たちが「希望」です。
http://userweb.www.fsinet.or.jp/aisuisin/

追記

オアシスグループの見事なステージでした。小菅さんを中心に練りに練ったスタイルで、小島さんのナレーション、入山さんの語り、吉井さんと三留さんのプレゼンと時間いっぱいに使ったショー形式の講演でした。
子どもたちに目の不自由な人の生活を教えるだけでなく、感じてもらう、考えてもらう工夫が溢れていました。私たちは時々参加しながら、なるほどなるほど、ほーそうだったのか、と感心しながら拝見していました。まさに「子供は未来」と感じました。そして子供と接することで、関わった大人達も生き生きしてくることが良く判りました。
オアシスの皆さん、ありがとうございました。

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