地域包括ケアシステムってなに?
報告:第255回(17-05)済生会新潟第二病院眼科勉強会 斎川克之
演題:地域包括ケアシステムってなに?−新潟市における医療と介護の連携から−
講師:斎川 克之(済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター副センター長 新潟市医師会在宅医療推進室室長)
日時:平成29年05月10日(水)16:30 ~ 18:00
会場:済生会新潟第二病院 眼科外来
http://andonoburo.net/on/5907
講演要約
■新潟市の概況
政令指定都市新潟市の概況は、以下のとおりです。人口80万、65歳以上の高齢者27.5%、75歳以上の後期高齢者13.6% 地域包括支援センター27カ所、要介護者数40,000人。急速に高齢化が加速している状況であり、2025年には、人口約76万人、65歳以上の高齢者30.3%、75歳以上の後期高齢者17.2%と試算されています。
■医療機関について
地域包括ケアシステムにおける医療の役割は極めて重要です。地域住民にとって最も身近で日々の健康相談含めたプライマリケアを担当してくださるのがクリニック・診療所です。初期診断と治療、そして場合によっては適切な病院への紹介など豊富な経験で地域の住民のかかりつけ医として機能を発揮します。また、関係機関にとっても地域住民にとっても圧倒的な信頼感と安心をあたえることのできる存在、それが病院です。病院にもいろいろな種別が存在します。大きくは4種類あり、高度急性期、急性期、回復期、慢性期です。それぞれの病院が機能と役割を果たしています。
■当院の概況
当院は、新潟市西部にある425床の地域医療支援病院です。当院がある新潟市内は、高度急性期や専門性の高い医療を担う医療機関が集中している地区です。その中にあり、当院の強みはまさに地域からの信頼の指標である「連携」です。医療連携を柱としながらも、近年は地域の多職種連携を含む地域連携に対する取り組みを積極的に行ってきました。その最前線で機能を発揮する部署が、地域医療連携室・医療福祉相談室・がん相談支援室・訪問看護ステーションの4部署から成る地域連携福祉センターです。
■医療福祉相談について
地域の方々にとって、最も知っていたきたい病院の窓口、それが医療福祉相談室、そして医療ソーシャルワーカーです。医療ソーシャルワーカーは、患者さんの病気の回復を妨げている色々な問題・悩みについて、本人(ご家族)と共に、主体的に解決していけるように相談に応じています。特に近年の急速な超高齢社会においては、退院支援の相談が最も多く、在宅での療養生活を見据えた丁寧な援助を行っています。
■地域の連携が強まるように
他の医療機関から、いかにスムーズに紹介患者を受け、またその後に地域に帰すか。そこには地域からの強い信頼関係を基盤とした連携の仕組みがあればこそであり、院内だけの取り組みだけでは不十分です。自院だけでなく「地域力」をいかに高めることができるか、地域の全体最適を考える必要があります。地域の各医療機関が持つ医療資源やマンパワーを合わせて、最大限に個々のパフォーマンスを発揮できるようにするための「接着剤」が地域医療連携室の役割だと考えます。新潟市では、市内8区に在宅における多職種が連携を深める会である「在宅医療ネットワーク」が20団体あり、各職種の相互理解、課題解決へのアプローチなどそれぞれの取り組みを積極的に行っています。当院は、西区を対象に「にいがた西区地域連携ネットワーク」の事務局を担い、会の企画運営などを行っています。
一方、介護保険法の地域支援事業には在宅医療・介護連携推進が大きく謳われております。そしてその推進の指標として(ア)から(ク)の項目を平成29年度中に実施すべきとされています。その中の1項目に「多職種連携の構築支援、関係機関からの相談窓口」があります。これを新潟市は、先に述べた在宅医療ネットワークの事務局を担ってきた病院の連携室に業務を委託する形をとり、名称を「新潟市在宅医療・介護連携ステーション」(以下連携ステーション)としました。またその連携ステーション11か所を束ねる役割として「新潟市在宅医療・介護連携センター」を新潟市医師会に委託しました。いわゆる在宅医療介護連携のノウハウを持ち合わせた病院の連携室に、この事業の最前線を委ねた結果となりました。地域住民の相談窓口である地域包括支援センターと連携ステーションの両輪が機能を発揮しているところが新潟市の大きな特徴です。
■地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステム構築の取り組みにおいて、近年、医療介護分野では目まぐるしく制度の変革が行われてきました。現在、全国の各市町村は主体的に、この地域包括ケアシステムの構築を進めています。これまで述べてきたように、新潟市においては、病院や診療所などの医療機関と介護・福祉の事業所などとの協力体制を強めてまいりました。今一度、地域包括ケアシステムとは何か。正直に言って「これ」と指を指せるものはありません。言葉で表現するならば、「地域のみなさんが、健康な時も、病気になった時も、どんな時も、今まで住み慣れた地域で安心して暮らすことのできるまちづくり・地域づくり」を根底とし、市区町村が中心となり、「住まい」を中心に「医療」「介護」「生活支援・介護予防」を包括的に体制整備していくこと。その実現のためには、医療と介護、そして福祉の途切れのない連携体制はもちろんのこと、ヘルスケアに関連するさまざなまな領域の方々、そしてもっとも主役となる地域の住民の方々との広い連携、そして参加できる場が最も重要となります。
略歴
斎川 克之(さいかわ かつゆき)
・社会福祉法人恩賜財団済生会 済生会新潟第二病院 地域連携福祉センター 副センター長
・一般社団法人 新潟市医師会 在宅医療推進室 室長
職種:社会福祉士、医療ソーシャルワーカー、医療福祉連携士
平成 7年/新潟県厚生連・在宅介護支援センター栃尾郷病院SWとして就職
平成 9年/済生会新潟第二病院に医療社会事業課MSWとして就職
平成22年/地域医療連携室 室長
平成27年/地域連携福祉センター 副センター長
平成27年/新潟市医師会在宅医療推進室長 併任
後記
斎川氏は当院ばかりでなく全国でも活躍している医療福祉支援の専門家。流石に非常にわかりやすく、しかも丁寧なお話でした。参加者の関心も高く、盛り上がった勉強会になりました。
講演後のフリートークでは、「包括さん」には大変お世話になったなどの好意的な発言もありましたが、容赦のない発言・質問も炸裂。・「自分ファースト」の時代に共生社会を作ろうというのは、「絵に描いた餅」ではないか? ・医療介護連携の区割りが、病院ベースだ。町内会や小学校校区ベースがしっくりする。・学生からは、学生実習で南魚沼に行ってきたが、4世代家族の奥さんは生き生きしていた。新潟との違いを感じたとのコメントもありました。
なんといっても印象的だったのは、斎川さんの非常に真摯な姿勢でした。ICTが流行っている世の中ですが、こうした人と人の触れ合いが物事を進めていくのだと、斎川さんを見て学びました。
議論百出で終わりそうにない勉強会でしたが、こんなコメントで締めくくりました。「自分の健康や親の介護を人任せではなく、先ずは自分で考え、こういう包括システムを学ぼうということが大事ではないか。かつては「長男の嫁」が親の介護を担ってきた。しかし世界にも稀な長寿国となると、それも難しくなってきた。今、国は大きく体制を変えようとしているが、その実態は地方自治体に任されている。そんな状況下で、なんとか皆が上手く生きていこうという社会を作るために、多くの困難に立ち向かっている斎川さん達の活動を、私たちが支援したい。」