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股関節よもやま話【第四話】

整形外科

股関節よもやま話【第四話】~手術を受ける際の不安について~

整形外科 伊藤 知之

 今回は実際の手術を受ける方が必ず経験する<不安>についてお話したいと思います。そもそも患者さんが<手術を受ける>とは一大決心であり、長い人生の中においてそう簡単に経験することではありません。一方我々医師は毎日毎日手術を行い、その準備から術中操作・術後管理まである意味慣れている状況ですし、そうあるべきだと思います。その医師から外来という、限られた短い時間で説明を受けても不安はなかなか払拭できないのではないかと日々思っておりました。そこで、この漠然とした不安を二つの原因にわけ少しでもその解消につながればと思い第四話とさせていただきます。

一つ目の原因は<分からないことによる不安>です。私は暗いところが大嫌いで、先の見えない洞窟なんかは照明がしっかりしていないと、不安で不安で入る気にはなれません。
この感覚が第一の原因なのではないでしょうか。そこで当院で一番行われている人工股関節全置換術(THA)を例にあげて、初診から退院までの概略を患者さん目線で解説することにより、少しでも明りをともせたらなあと思います。

 まずは紹介状をもって初診になります。開業医の先生や近くの病院で整形外科医が診察し、手術が必要である状態や股関節専門医によるより細かい診察が必要と診断された場合、当院への紹介状を作成してもらいます。しかし紹介されたからといって即手術しかないということは当院ではありませんのでご安心を。非常に当たり前のことですが、まずは御本人の希望や目的をよく聞き、それに応じて治療方針を決めていきます。特に今までの治療経過をよく問診しTHA以外の方法はないかどうかをよく検討いたします。もちろん手術をすると決めて来られた方で症状も手術でとれる可能性が高い方は、その日に予定をくむこともよくあります。予定を立てた場合、手術の2~4週前に術前検査(血液・心電図・X線・下肢静脈エコー・CT検査など)を行うために受診してもらいます。術前検査で大きな問題が指摘された場合は、患者さんと相談し専門の科を受診して頂くことがあります。

当院ではTHAを行う場合自己血貯血は行いません。股関節専門医が手術を行うため輸血をする程の出血はほとんど致しません。稀に輸血を行う場合は御高齢の方や貧血がもともとある方に限られます。ただし、特殊なケースでは貯血や輸血を要する場合がありますので主治医に御確認下さい。

次に検査で大きい異常がないと、コメディカルにより入院に必要なもの・手続き・いつ家族が付き添ったらいいか・普段飲んでいるお薬はどうしたらいいか、等の説明があります。その際、事前に質問事項などをメモにしておいて頂けると、スムースにお答えできますのでより不安解消にいいと思われます。

また薬によっては手術の前に止めておかなければならないものもあるため、初診時にお薬手帳などを持参してもらっています。入院日は手術前日が基本となります。予定が決まりましたら後は風邪をひかないよう体調管理に十分気を付けて下さい。入院当日は朝9:00までに病棟に入ってもらい、その後医師より同意書を用いた術前最終説明があります。重要なお話がありますので御本人以外の御家族で責任者に該当する方に立ち会って頂いております。同席できない場合は事前に申し出て下さい。

また当院は急性期病院であるため急患の対応でお待たせすることがあるため、時間にゆとりをもってきていただけると幸いです。手術は翌日午前9:30頃入室か午前の手術が終わり次第はじまることを原則としております。全身麻酔と局所麻酔(各種ブロック注射)で行い、1時間から1時間半前後で終了します。その後経過をみるためにICU病棟に戻りますが、重症患者さんが多い場合は一般病棟に戻ることもあります。麻酔をかけたり・さましたりする時間を含めると、病棟をでてから帰るまで3~4時間程度を予定しております。2時間経って呼ばれなくても問題ありませんので御安心下さい。
予定通りすすんだ場合、翌日より体調に応じて車椅子に移ってもらい、上手な方は歩行器や杖を使った歩行を開始します。その際痛みを伴いますが、個人差が大きくその程度によって痛み止めの内服や注射・座薬などを併用していきます。ただし、術前の痛みとは異なり時間がたてばとれていく痛みですので安心して下さい。

よく、手術翌日から動き始めることにびっくりされる方がおられますが、術後合併症の一つである血栓症の予防やフォーレ(おしっこを出す管)を介した感染などを起こさない為にはとても重要と考えております。あくまで体調や痛みに応じてですのでご安心を。ただし手術を受ける方は自分のためと思って頑張って離床しましょう。その後数日でほとんどの方が歩行器や杖で病棟を行ったり来たりできるようになっております。

当院での退院基準は、杖歩行の安定・階段昇降・入浴動作の確認となっておりこれらができれば退院を許可します。早い方では3日で帰られる方がおりますが、通常は1週間程度となっています。よく退院する際、本当にこんなに早く退院するのですか?と聞かれる方が多いのですが、実は日本をいったん離れ海外に目を向けると数日以内に帰ることが多いようです。実際我々のグループの留学先であったデンマークでは翌日退院が基本となっておりました。幸いここは日本ですので御安心ください。
しかしそう考えると1週間は決して短くないのではないでしょうか?実際の入院生活をみていると、意外と一日数十分程度のリハビリが終わると時間をもてあまし、ついついベットの上でずっとテレビを見ていたりしていることが多くなります。入院していると、上げ膳据え膳状態になり、かえって動かなくなってしまうのです。家に帰るとみなさん必死に生活をするため、ちょっと物をとるだけでも歩かざる得ない生活になりますが、そのようなことをしているうちに自然と歩けるようになります。是非予定通り退院の話がでたら安心して御自宅に帰ることをお勧めします。

 二つ目の原因ですが、ズバリ合併症に対する不安です。これは先程の問題と異なり、知れば知るほど怖くなってしまいます。もちろん今の時代は起こりうる可能性をしっかりと説明しなければならない社会になっていますので、入院時の同意書である程度しっかりと説明していきます。しかし、残念ながらいくら説明したからといって、起こりえる合併症の確率は下がることは全くありません。洞窟に例えるのは恐縮ですが、この洞窟に入ると稀にコウモリにかまれることがあります、とか落石がおきることがあります、などの話と同じではないでしょうか。その可能性をゼロにする方法は、残念ながら洞窟には入らないことしかないと思います。話はもとにもどりますが、当院では余計な不安を感じさせないよう、脱臼・感染・血栓症などの合併症対策をできる限り準備して手術に臨んでおります。幸い全て1%以下の世界トップクラスの発生率ですので心配ありません。しかし、大切なことはたとえ1%であっても本人におこってしまえば100%になってしまいますし、他の99人の方がどんなに調子が良くても全く関係がないということです。

そのため、この二番目の原因による不安を払拭する唯一の方法は、主治医と信頼関係をしっかり築けるか?に尽きると思われます。
当院でお約束できることは、できる限り合併症が起きないようにベストを尽くすことと、万が一起きてしまった場合は迅速な対応を行い最後まで責任をもって治療を行いたいと思います。施設によっては手術件数ばかり気にして、感染などが起きると他の病院に押し付けてしまう病院もあるのですが、医療人としてのモラルをもって治療にあたりたいと思います。
 以上、手術に対する不安が少しでも軽減されることを願い第四話を終わりにしたいと思います。

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