HOME > 診療科紹介 > 整形外科 > 股関節よもやま話【第三話】

股関節よもやま話【第三話】

整形外科

股関節よもやま話【第三話】~人工股関節全置換術の実際~

整形外科 伊藤 知之

今回は実際の人工股関節を受けた方がどんなことができるのかを中心にお話したいと思います。現在当院では最小侵襲手技(MIS)と3次元術前計画・術中支援・術後評価システムを用いて人工股関節全置換術(THA)を行っております。簡単に言うと、一人ひとりの患者さんに応じた計画を立ててできる限り負担をかけない手術を行い、術後の状態を確認しながら今後の治療に役立てています。同じ変形性股関節症という病名が付いていても一人ひとりの状態はとても異なるため、手術も個々人の目的に合わせて調整するよう心がけております。そのため月に行える手術件数には限界があることが難点ですが、より満足度の高い手術を目指しております。ひとつの参考としてみていただければと思います。

 当院での入院期間は、日進月歩でリハビリテーションが進化しているため現在では1~2週間と2週間以内になっています。手術予定が決まると準備のため術前に1~2回受診して頂き、感染・脱臼・血栓症などの合併症対策をできる限り行って手術に望みます。前日に入院して頂き、術前貯血や輸血などは貧血や御高齢の方以外は原則行いません。術後24時間以内に外転枕の使用や動作制限等なく痛みに応じて歩行訓練を開始します。痛みや体調などに応じて歩行訓練を進め、数日経つと病棟で杖歩行をしてもらっています。1週間で血液・レントゲン・CT検査など行い、特に問題なければ退院を許可するようにしています。

 それでは実際の患者さんをお見せします。こちらの方は53歳の女性で、両側末期変形性股関節症の診断でした。特に大きな持病などもなく早期社会復帰を御希望された為、両側同時にTHAを行いました。術後特に問題なく経過しこの動画は術後12日目の歩行状態です。退院は少し遠方の方であったため2週となりましたが、杖をもって帰られました。

続いて51歳女性で左末期変形性股関節症の方です。この方は人工関節との相性がよかったためか、2日目に独歩ができるようになりました。この動画は術後6日目の退院直前に撮影されました。

しかし残念ながら私たちの手術が全員このような経過になるわけではありません。原因は未だによくわからないのですが、時々翌日から独歩できる方を経験します。当院で一番早く退院された方は術後3日で帰られました。
近年人工股関節の手術件数が爆発的に増えていってしまい、手術件数やナビゲーションなどだけが注目されるようになってきてしまっているのですが、実はまだ本当の意味での理想的設置角度などは決まっていない・決められないことが実状です。近年の技術革新により自分たちが決めた基準に、いいと思っている角度どおり入れることはかなりの精度でできるようになったのですが、その基準は人それぞれ異なっていることがわかり、いいと思っていた角度が未だに様々な誤解のため10度程度も変わってしまうなか、先端技術だけに目を奪われている風潮もあり、現在この業界も反省の時期に来ているような気がしております。

 最後になりますがこの方は55歳の男性であり仕事上運動に関わっている方で、術前にふと「手術してもバック転できますかね?」と言われたことを思い出します。もちろん簡単には許可はだせませんし、そもそも当院の手術適応のある方でバック転ができる方は皆無でしたので、「でんぐりがえりにしておきましょう」と術前冗談をいっておりました。しかし、この方の術前計画・術後評価を行いシミュレーションさせると理論的にはできるのではないかという疑惑がでてきました。

もちろん耐久年数や予想外のことを考慮すると主治医としてはお勧めできないのですが、ふと術後半年検診の際バック転の話になりました。その時御本人から「バック転はまだ力が入らないのでやってないけど、ハンドスプリングならばやっていますよ」という返事が返ってきました。ハンドスプリング!?と思い、後日現場を訪れたときの動画がこちらになります。

これはあくまで特異な例ですが、よく術後の患者さんとのお話の中で<先日バスに乗り遅れそうになって数メートル走ってしまったのですけど大丈夫でしょうか?>ということを聞かれることがあります。そのような方には術後こんなことをしている方もいると思うと少しは安心するのではないでしょうか。もちろん、この話は過度な運動をお勧めするというお話ではありません。先程も書いたとおり、耐久年数や予想外のリスクを熟考した上での場合ですので決して真似をしないでください。

 今回はかなりパフォーマンスのいい方を提示しましたが、決してそのようなことばかりではありません。私が患者さんならば、まずは手術以外の方法をしっかり検討すること、手術が必要ならば合併症が起きないよう最大限の努力をしつつ、かつ手術効果が最大限だせる施設でうけたいものです。

ページの先頭へ