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報告:第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会 大石華法

眼科

報告:第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会 大石華法

報告:第228回(15‐02月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会  大石華法
演題:「視覚障害者の化粧技法について~ブラインドメイク・プログラム~」
講師:大石華法(日本ケアメイク協会)
日時:平成27年02月4(水)16:30 ~ 18:00 
場所:済生会新潟第二病院 眼科外来 
http://andonoburo.net/on/3418

講演要約

1.現在化粧の動向と視覚障害者
 化粧は、顔の容姿を美しく装うだけのものではなく、社会人女性としての「身だしなみ」と言われるまでになっている。現在では1人の成人した女性として社会に参加するには、「身だしなみ」の1つとして化粧することが習慣化されている。
 女性が美しくなることに関する研究や商品開発は止まることを知らず、綺麗な容器に身を包んだ化粧品や美容アイテムが次々と生産されて女性を魅了し続けている。昨今では若者女性の間で,目を大きく魅力的に見せるアイメイクの流行により、マスカラ、付け睫毛、アイライン、カラーコンタクトレンズなどを着用し、華やかで個性ある化粧を施す女性が多くなった。
 今や化粧は社会人女性としての「必須アイテム」となり、「アイデンティティ」の確立に寄与しているとさえいわれている。また化粧の本格的な習慣化は、成人としての社会参入条件であるとの指摘もある。これらの報告から現在社会における化粧は、女性にとって、自身の生き方や社会生活と大きく関連するものであることが指摘できる。

2.化粧と視覚障害者の現状
 化粧社会と言われるなかで、視覚に障害を有することで自分自身の顔を鏡で見ることが不自由な女性は、化粧をしなくなる傾向がある。その背景には、視覚に障害を有しながらも化粧を試みるが、他者からの低い評価を受けたことで自信を失い、自己肯定感が低くなるなどの心理的な影響によるものが多い。低い評価の例として、「化粧がムラになっている」「チーク(頬紅)やアイブロー(眉毛)が右対称ではない」「口紅がはみ出している」「化粧が濃すぎる」などがあげられている。
 このような低い評価を受けたことで,化粧することに対して不安や恐怖を感じて,化粧をしなくなる傾向にある。また、化粧したくてもできないことでコンプレックスを持つ女性も多い。これらから、視覚に障害を有する女性にとって化粧をしたくてもできないことは、化粧社会の女性の中で疎外感を持つことにつながり、女性性を低下させる要因の1つになっているのではないかと考えた。

3.視覚障害者に向けた化粧支援
 演者は化粧活動の中で、化粧したくてもできないことでコンプレックスを抱えている視覚障害者に多く出会った。この出会いがきっかけとなり、視覚障害者に化粧の色彩や仕上がりを音声にした情報を提供することに関心をもった。
 化粧品や色彩などの美容情報を口頭で伝えながら化粧施術をすることで、視覚障害者は自身が化粧により綺麗になっていく工程を化粧施術者の音声情報により認識して,化粧を楽しむことができた.また他者から「綺麗」「可愛い」「美しい」など女性特有の称賛を受けることで自信を取戻し、外出支援に繋がると期待された。
 しかし、この活動には限界があった。それは化粧技術者が視覚障害者に化粧を施した直後の場合では綺麗に仕上がった状態であるが、「食事をすると口紅が落ちた」「汗で化粧が崩れた」など化粧にはパーマネント性がないため、1度化粧崩れしてしまうと「化粧直し」という2次的な支援まで活動が行き届かないことであった。

4.「ブラインドメイク・プログラム」の開発
 そこで演者は、視覚障害者に化粧施術者によって化粧すること自体を抜本的に見直した。視覚障害者が他者からの施しによって化粧されるのではなく、自分自身で化粧ができる「化粧の自己実現」に意義があると考えた。この考えから、2010年に鏡を見なくてもフルメイクアップができる「ブラインドメイク」の化粧技法を開発した。
 そして、化粧の仕上がりは結果主義や成果主義であることから、化粧工程に工夫とテクニックを組み入れた。化粧の仕上がりを「バランスの取れた自然な仕上がり」に見せることを課題として合理的かつ効率的な化粧技術を追求した。この研究から無駄な動きを省いて合理的かつ効率的に鏡を見なくても化粧することができる「ブラインドメイク・プログラム」を完成させた。(映像視聴:12分30秒)

5.障害者ではなく、ひとりの女性として
 ブラインドメイクができるようになった視覚障害者の女性は、「自信が持てる」「外出したくなる」「人と話がしたくなる」(心理的有効性)、「元気になる」「食欲が増す」(身体的有効性)、「周囲の人が親切になった」「声掛けや手引きをしてくれる人が多くなった」(社会的有効性)と述べている。これらから、社会的視点では、視覚障害の女性を"障害者"ではなくひとりの"女性"として認識し、尊重した接し方をしていると考えることができる。また、視覚障害者からの視点では、ひとりの女性として社会的配慮ができるということ、そして社会へ参加する前向きな意思があるという周囲へのアピールになっていると考えることができた。このような取り組みが社会に向けた視覚障害者からの理解を深める1つの活動につながり、彼女たちの声掛けや手引きにつながっていると考えている。

追伸
「理美容ニュース」で、昨年、日本美容福祉学会で発表しましたブラインドメイクの研究が取り上げられて、記事になりました。ご一読いただけましたら幸いです。この発表がきっかけで、今年の秋から、美容専門学校のメイク科で、ブラインドメイクを科目に入れていただくことになりました(大阪市中央区)。私のもう一つの役割として、ブラインドメイクを通して、広く社会に視覚障害者を理解してもらうことと考えています。
http://ribiyo-news.jp/?p=13994

略歴

1995年,中央大学 法学部法律学科 卒業
2010年,大阪中央理容美容専門学校 卒業
2012年,日本福祉大学 福祉経営学部 卒業
2013年,日本福祉大学大学院 社会福祉学研究科 在学中
日本ケアメイク協会 会長(2010年~2014)
http://caremake.on.omisenomikata.jp/

後記

 大石さんは、中央大学法学部出身、理容師の資格を持ち、普段は司法書士として仕事をし、かつ福祉大学の大学院で学んでいます。そして目の見えない方のためのメイクを独自の手法で開発し、広めているのです。浪速っ子。講演は、パワーに溢れていました。ユニークでした。有意義でした。楽しかったですし、元気をもらいました。講演を聞きに来た方々を巻き込み、突っ込みをいれての熱演でした。初めから笑いの連続であっという間の90分でした。
 曰く、・女性には化粧が大事。・化粧のコツは、左右対称にするために両手を使う。・筆より指がいい。・メイクの中心は「目」。・目を大きく見せる・睫毛は長く見せることが大事。・褒める、でも悪いとこはしっかり伝えるも大事。・私は綺麗という自信(勘違い)が大事。・キレイニなることで、社会への参加の機会が増える。・いつまでも異性に対するワクワク感、トキメキ感が大事。・環境や周囲の理解が大事。・福祉関係の人にメイクに関心がない人が多い、、、、、、、、、「小じわが気になるんです」というと、よく「そんなの心配ない。私はもっとある」とか言われてしまう。そんなことを言われたら、(あなたはそれでいいのかもしれないけど、私は嫌だ)と思う。。。。。
 実際のところ、視覚障害者にとって先ずは日常の生活ができるようになることが求められ、化粧は次の段階であろうと思います。化粧品の購入にはお金もかかります。しかし視力を失い多くのことを諦めるようになった方々が、(特に女性の場合)「ブラインドメイク」によって、諦めた多くのものを取り戻せるきっかけになるのではないかと強く感じた次第です。
 大石さんの今後の益々の活躍を応援したいと思います。このプロジェクトが発展し、多くの視覚障害者に希望をもたらしてくれることを祈念します。

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