【特別講演-1】  気賀沢一輝(杏林大眼科)  「ロービジョンケアにおける心療眼科の役割」  3年前に心療眼科研究会を立ち上げました。その主なテーマは、 (1)器質的変化が検出されない目と視覚の異常感への対応、 (2)眼科疾患に伴う精神症状への対応、 (3)ロービジョン患者の心理的ケア、などです。 我々眼科医療従事者はメンタルケア、精神医学の基本を知らなすぎるために、 救える患者も救っていないのではないか、という素朴な疑問がその原点です。 眼科領域にもっと専門的なメンタルケアを導入するには二つの方法があります。 一つは精神医学の専門家との連携であり、もう一つは眼科医療従事者がメンタ ルケアの基本的技術を身につけることです。ロービジョンケアではメンタルケ アが非常に重要です。そのために心療眼科を勉強することは意味があると思わ れます。まず始めることは、精神医学の豊富な財産の中から眼科に応用できる ものを探し出すことです。  今回は、カウンセリングのパイオニアであるロジャーズの来談者中心療法、 ベックの認知療法、森田正馬の森田療法のエッセンスを紹介します。また、 失明告知は癌の告知と似ており、精神腫瘍学の成果の中からロービジョンケア に応用可能な部分を紹介します。また、ロービジョンケアは治療的な専門医療 が限界に達してから導入されることが多いので、EBMを補完するNBM (物語りに基づく医療)の比重が大きくなります。ロービジョンケアにおける NBMの役割についても解説します。  気賀沢一輝 略歴   1977年 慶應義塾大学医学部卒業   1979年 慶應義塾大学医学部眼科助手   1988年 東海大学医学部眼科講師   1996年 東海大学医学部眼科助教授   2000年 同退職   現在    杏林大医学部眼科非常勤講師          横浜相原病院(精神科病院)非常勤医師 心療眼科研究会世話人代表 【特別講演-2】  櫻井 浩治(新潟大学名誉教授;精神科)   「心と病気ー病は気から、とは本当だろうか?」   私は「心身医学」を専攻した精神科医です。  「心身医学」とは、心身相関の医学であり、患者中心の医学です。  つまり、心身の障害を持った人を、その障害の部分だけを診るのではなく、 障害を持ったその人の精神的苦悩は勿論、その家族の苦悩をも診る、という 全人医療を、「障害者を診る基本的態度」として主張する医学です。  したがって、障害を持つ人の心理、医療機関を渡り歩く、など特別な行動 をとる患者の心理、心理的な影響で起こる身体の障害(心身症)や、医療者 によって引き起こされる身体の障害(医原性疾患)、などが具体的な研究内 容になります。  例えば、心理的影響で起こる身体障害としては、検査上、何ら異常所見が ないにもかかわらず、瞼が垂れる症状や、声が出なくなる症状、あるいは歩 行が困難になったり、めまいが出たり、痛みがとれないなどの症状があり、 抜毛症や摂食障害のように行動の異常からの身体障害もあります。  更には心理的なストレスの結果として、円形脱毛症や胃潰瘍、高血圧など、 検査上でも異常のある様々な身体障害が生じます。いわゆる自律神経失調症 といわれる状態は、上に挙げたものとこれの中間の位置にあります。  こうした症状はまた、実際の身体障害に重なるようにして現れる場合もあ るのです。当日は、このような自分の意思とは無関係に生じる、心理的原因 による身体症状や障害、及びその周辺を、私の臨床経験をもとにお話しして みたいと思います。 自己紹介  昭和11年1月生(旧姓 塚田)  昭和39年、新潟大学医学部卒。慶応義塾大学医学部精神神経学教室入局、 精神科専攻。新潟大学定年退職後、新潟医療福祉大学に勤務。現在河渡病 院デイケア病棟に務めている。平成10年第39回日本心身医学会総会会長。 医学博士。  一般的著書に「源氏物語の心の世界」(近代文芸社)「乞食(こつじき) の歌―慈愛と行動の人良寛」(考古堂)「句集独楽」(オリオン印刷) などがある。