済生会新潟第二病院眼科勉強会の報告です。参加できない方も、近況報告の代わり にお読み頂けましたら幸いです 報告:第221回(14‐07月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会  「新潟盲学校弁論大会 イン 済生会」    日時:平成26年6月11日(水)16:30 〜 17:30    場所:済生会新潟第二病院 眼科外来  (1)「歌」 高等部普通科3年   (2)「中学部に入学して」 中学部1年  http://andonoburo.net/on/2955 『歌』 新潟盲学校 高等部普通科3年         ===================== 【講演要旨】  私は歌が大好きです。聴くことも好きですが、歌うことはもっと好きです。  私は、生まれた時から歌が好きだという訳ではありませんでした。それどころか、 小さい頃は、歌に関心がありませんでした。  幼稚園の卒園式では、歌い終わった後にしゃべったりふざけたりしていたため、何 度も何度も歌の練習をさせられました。そのため、同じことを繰り返すのに飽きてし まいました。嫌いというより嫌になっていました。  ある時先生が、「あなたは歌が上手いんだから、ふざけないで練習しましょう。」 と、私に言いました。その時初めて気づきました。私は歌が上手いらしいと。卒園式 当日は、真剣に歌い、沢山の人からほめていただきました。その時、歌が好きになっ たような気がします。私は、努力すること、頑張ることが嫌いです。しかし歌は、練 習をしなくてもほめてもらうことができました。  中学生の時、友達とカラオケに行きました。当時の私は、自分は天才だ、自分より 歌が上手い人はいない、と思っていました。ですから、友人の歌声を聴いた時、とて も驚きました。透き通った声は安定していて、力強く心に響く、そんな歌声でした。 私には、友人の歌は完璧に聴こえました。しかし友人は、「全然上手くないよ。音外 してるし、高い声でないし。」と言いました。私よりも上手いと思った友人のその歌 を、友人は自ら下手だと言ったのです。友人が下手なのであれば、私はド下手という ことになってしまいます。その時、私は何の才能も持っていないのだと、自覚しまし た。けれども、私は何の取り柄もない人間にはなりたくありません。努力することが 嫌いな私でしたが、歌の猛特訓を始めました。自分の好きな女性歌手と、同じような 声で同じように歌えば、完璧に歌えると考えました。練習の成果もあり、好きな女性 歌手の歌なら、真似して歌うことができるようになりました。  これで、私と友人は同等になれただろうと思いながら、再び、友人とカラオケに行 きました。自分で言うのも何ですが、前回より断然上手くなったように思えました。 友人も、前回と同じく素敵な歌声でした。『それでも友人は、自分の歌を下手だと言 うんだろうな。私もド下手から下手へランクアップできてよかった。』そんなことを 思っていると、友人は男性歌手の歌を歌い始めました。私は、好きな女性歌手一本で 攻めていましたが、友人は様々な歌手の歌を歌いこなしたのです。私は歌の上手い下 手を比べる意味が見いだせなくなりました。そして、歌は競うものではなく、楽しむ もの、真似て歌うのではなく、自分のものにするものだと、改めて知りました。  歌が大好きな私ですが、音楽の授業で、歌う人を上手い下手で評価するところがあ まり好きではありません。そこはやはり、授業なので仕方がないとは思いますし、一 生懸命取り組んでいます。たとえ音痴な人でも人一倍心を込めて歌えば素晴らしいと 思います。また、歌が上手いのに、全く心を込めていないのなら、私はあまり感動で きません。私も時々、何も考えなかったり、全く違うことを考えながら歌っていたり することがあります。そんなときに、「上手だね」と言われても、全然嬉しくない し、『こんなんでいいの?』と思ったりします。私はやっぱり自由に歌うのが好きな のです。  私は、楽しい時でも、寂しいときでも、泣きながらでも、風邪を引いて喉が痛くて も歌を歌います。歩いている時も、歯を磨いている時も、食事をとる時も、行儀が悪 いと分かっていながら、歌ってしまいます。授業中でさえも歌いたくて仕方がありま せん。  いつでもどこでも歌ってしまう私ですが、私にも歌えない時があります。ひどく落 ち込んでいる時や悩み事がある時です。そんな時は、歌を歌おうとも聴こうとも思い ません。それでもやはり、私を救ってくれるのは歌です。お店や駅前で流れている音 色に、救われます。落ち込んでいる時でも、前向きな気持ちにさせてくれます。  私の隣には、いつも歌がいます。歌がない世界なんて考えられません。「歌う な!」と言われたら、「死ね!」と言われているのと同じです。私にとって、歌は体 の一部です。うるさいと言われても、下手だと言われても、私は歌い続けます。  これで終わります。ご清聴ありがとうございました。 「中学部に入学して」 新潟盲学校 中学部1年      ====================== 【講演要旨】  私はこの春中学部に入学しました。小学部の頃から私は中学部のことを、「先生も 厳しそうだし、やることもとてもたくさんありそうで大変なところなのかな」と、不 安に思っていました。  入学式当日、私は入学式という言葉を聞いてもピンときませんでした。制服に着替 え車に乗っても、まだ小学生の頃のままの自分がいました。式が始まり、新入生入場 になりました。会場にいる人達の拍手を聞きながら、「私は、本当に中学部に入るの かな。中学部を楽しめるかな」と、いろいろなことを考えて席に着きました。そんな ことを思っていると、教頭先生に呼名されました。それで「私はもう中学生なんだ」 と初めて思いました。と同時に、なんだか少し大人になったような気がしました。  中学部は小学部と違うので、戸惑うことがたくさんあります。教科ごとに先生が変 わったり、時間割も、表を見ないと時々忘れてしまったりしてしまいます。また、初 めての第1回生徒総会の時に渡された生徒会規約も、何ページもあってとても難し かったです。これからもこんなことがたくさんあるんだと思うと心配になりました。  中学部に入学して1ヶ月たった時、先生から3年間は36ヶ月ということを聞き、 36という数字の大きさに、そして中学校生活のその長さにとても驚きました。ま だ、1ヶ月しかたってないのに、これからの長い三年間を、どうすごしていけばいい のだろうかと思っていました。  そんな私も、入学式から4ヶ月がたとうとしています。少しずつ中学部のことが分 かってきたような気がします。そして私は、中学部のことを知り始めています。先輩 達のやさしさ、後輩を思いやる気持ちなど、今の私にとって学ぶことがたくさんあり ます。来年は2年生になり、後輩ができます。その時、「頼りない2年生だなあ」と 思われないように、この1年間でいろいろなことを学び、先輩たちのようにしっかり とした中学生になりたいです。それはきっと3年生になっても同じだと思います。こ の3年間の学校生活を充実したものにするために、今日からの一日一日を大切に過ご していきたいと思います。そして中学部を卒業する時、「いろいろ教えくれて、あり がとうございました。」と、後輩に言われるよう頑張りま す。 ご清聴ありがとうございました。 【後記】  新潟盲学校の生徒の弁論大会を当院で行うようになって10数年経ちます。毎年、生 徒の弁論に感動を頂いています。今回も視覚に障がいを持つ中学生と高校生が、精一 杯に弁論を行いました。  最初の弁論「歌」では、歌が好きで好きでたまらないという高等部の弁論でした。 やる気にさせる上手いほめ方にも興味を覚えました。歌の本質は、うまい下手ではな く、心を込めて歌うことと彼女なりの考えが伝わってきました。何よりも弁論の声が 澄んでいて美しかったのが印象に残ります。    次の弁論は、実は当日体調を崩して盲学校の先生が原稿を代読しました。確かに小 学校から中学校への進級は、私にとってもひとつ大人への階段を上がったような気が しました。私の頃(50年近く前ですが)、中学生になるとき、男子は髪を丸刈りに し、黒の制服を着たものです。小学生から見ると大人の世界にジャンプするような感 覚だったことを思い出しながら拝聴しました。盲学校の小学部から中学部は、同級生 もほとんど変わらないということもお聞きしました。それでも生徒会活動などを経験 し、いろいろ社会と関わり合いを持つことを学ぶ時期であるとお聞きしました。中学 進級が人生の中で大きな節目であることを実感した次第です。  今年も爽やかな感動をもらいました。 ================================== 【全国盲学校弁論大会】  大会への参加資格は、盲学校に在籍する中学部以上の生徒。高等部には、はり、 きゅう、あんま、マッサージの資格取得を目指す科があり、再起をかけて入学する中 高年の中途視覚障害者も多い。7分という制限時間内で日ごろ胸に秘めた思いや夢が 語られる。今年で83回を迎えた。 【全国盲学校弁論大会:関東・甲信越大会】 第83回全国盲学校弁論大会の関東・甲信越地区大会(同地区盲学校長会主催、毎日 新聞社点字毎日など後援)が6月27日、東京都文京区の筑波大付属視覚特別支援学校 で開かれ、9都県の代表ら15人が参加した。県立平塚盲学校高等部普通科3年の八 木亮太さん(17)が優勝し、10月3日に水戸市で開かれる全国大会に出場する。 http://10picweb.csdsol.com/detail.html?id=m_100000_0_10788722 ================================== 『済生会新潟第二病院眼科勉強会』  1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。 話題は眼科のことに限らず、何でもありです。参加者は毎回約20から30名くらい です。患者さん、市民の方、医者、看護師、病院スタッフ、学生、その他興味のある 方が参加しています。眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、 寺子屋的な雰囲気を持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後 30分の意見交換があります。    日時:毎月第2水曜日16:30〜18:00(原則として)    場所:済生会新潟第二病院眼科外来 *勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。  1)ホームページ「すずらん」   新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している  音声パ ソコン教室ホームページ   http://www11.ocn.ne.jp/~suzuran/saisei.html  2)済生会新潟第二病院 ホームページ   http://www.ngt.saiseikai.or.jp/02/ganka/index5.html  3)安藤 伸朗 ホームページ   http://andonoburo.net/