済生会新潟第二病院眼科勉強会の報告です。参加できない方も、近況報告の代わり にお読み頂けましたら幸いです  報告:第207回(13‐05月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会   演題:「インクルーシブ教育システム構築と視覚障害教育                    〜盲学校に求められるもの〜」   講師:小西 明 (新潟県立新潟盲学校:校長)     日時:平成25年5月8日(水)16:30 〜 18:00      場所:済生会新潟第二病院 眼科外来  【講演要旨】 1 障害者の権利に関する条約  障害者プランが終了した後の平成16年(2004)、最近の平成23年(2011)に障害者 基本法の改正がありました。この間、障害のある子どもの教育においては、平成19年 に障害児教育(特殊教育)が特別支援教育という用語に改正された時でした。この前 後から、それまでの統合教育とかノーマライゼーションという用語に代わり、インク ルーシブ教育(インクルージョン)という用語が使われるようになりました。特別支 援教育では、障害者である児童生徒とない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮 すること。障害者である児童生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供やその意 向を尊重すること。交流及び共同学習の推進などが課題とされました。  同時期の平成18年(2006)、国際的な動きとして「障害者の権利に関する条約」が 第61回国連総会で採択され、平成20年(2008)に発効しました。我が国は、平成19年 (2007)に条約に署名し、現在批准に向け政府で検討がなされています。条約の内容 は、前文と第1条から第50条まであり、全文はネットで検索していただくとして、教 育に関しては第24条に示されています。24条にはインクルーシブ教育(包容教育とか 共生教育と訳されている)が明記されています。これを簡略に表現すれば、 1) 原則的に、障害のある者も障害のない者も、共に学ぶ仕組み「inclusive education system 」(署名時仮訳:インクルーシブ教育システム)であり「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと。 2) 共に学ぶに必要な人的・物的配慮を受ける合理的配慮が提供されること。(視覚 障害者であれば、拡大図書や読書器、点字教材や指導者の配置など) 3) 小学校や中学校等、希望する教育環境で学ぶことができる仕組みなどです。 2 障がい者制度改革推進会議  これを受け、我が国では平成21年(2009)12月に、条約の締結に必要な国内法の整 備をはじめとする障害者に係わる制度の改革、並びに障害者施策の推進を図るため、 内閣総理大臣を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」が設置されました。さら に、同本部の下に「障がい者制度改革推進会議」 (以下:推進会議)が設置され、 制度改革が行われています。 障害者の権利に関する条約にかかるこれまでの経緯 ・平成18年12月 国連総会において採択 ・平成19年 9月 署名 ・平成21年12月 内閣府「障がい者制度改革推進本部」及び「障がい者制度改革推 進会議」を設置 ・平成22年 7月 中央教育審議会「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」 (通称:特特委員会)を設置 ・平成23年 8月 障害者基本法の一部を改正する法律が公布 ・平成24年 5月 内閣府「障がい者制度改革推進会議」を廃止、「障害者政策委員 会」を設置 ・平成24年7月23日 特特委員会は、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育 システム構築のための特別支援教育の推進」(報告)としてとりまとめた 3 特特委員会(報告)の要点 (1)共生社会の形成に向けて ・障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会です。それは、誰もが 相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相 互に認め合える全員 参加型の社会である。 ・このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な 課題である。 (2)就学相談・就学先決定の在り方について ・早期からの教育相談等による、本人・保護者への十分な情報提供と共通理解・障害 の状態、本人の教育的ニーズ、本人、保護者の意見、専門家の意見、学校や地域の状 況等を踏まえた総合的な判断で、就学先を決定する仕組みが必要である。 ・就学時に決定した「学びの場」は固定したものではなく、児童生徒のそれぞれの発 達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に転学ができることが重要である。例え ば、特別支援学級から通常学級へ、またはその逆など。 ・個別の教育支援計画の活用 (3)障害のある子どもが通常の学級等で、十分に教育を受けられるための「合理的 配慮」及び「基礎的環境整備」 ・「合理的配慮」とは、障害のある子どもが、他の子どもと平等に教育を受ける権利 を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変 更・調整を行うことであり、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担 を課さないもの。 (4)多様な学びの場の整備と学校間連携の推進 ・多様な学びの場として、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学 校それぞれの環境整備の充実を図っていくことが必要である。 ・域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により、域内のすべての子ども一 人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教 育システムを構築 することが必要である。例:視、聴、知、病等の学校 ・センター的機能を効果的に発揮するため、各特別支援学校の役割分担や、特別支援 学校のネットワーク構築が必要である。 ・交流及び共同学習は、特別支援学校や特別支援学級に在籍する障害のある児童生徒 等にとっても、障害のない児童生徒等にとっても、共生社会の形 成に向けて、経験 を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有するとともに、 多様性を尊重する心を育むことができる。 ・教育課程の位置付け、年間指導計画の作成等、交流及び共同学習の更なる計画的・ 組織的な推進が必要である。その際、関係する都道府県教育委員会、市町村教育委員 会等との連携も重要である。 (5)特別支援教育の充実のための教職員の専門性向上等 ・インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する 一定の知識・技能を有していることが求められる。 ・学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダー シップ は欠かせない。 4 新潟盲学校の取組 (1)早期からの教育相談:相談支援センター0歳から成人まで (2)情報発信:行政機関へのリーフレット、巡回相談、スマートサイト (3)幼保、小、中学校特支学級との連携:研修会参加、出張支援、授業参観、学習 支援教室 (4)交流及び共同学習:24・25年度実践研究校 (5)生きる力を育む指導と教職員の専門性:校内研修、情報の発信 【略歴】  1977年 新潟県立新潟盲学校教諭         1992年 新潟県立はまぐみ養護学校教諭      1995年 新潟県立高田盲学校教頭          1997年 新潟県立教育センター教育相談・特殊教育課長  2002年 新潟県立高田盲学校校長  2006年 新潟県立新潟盲学校校長 【後記】  「障害者の権利に関する条約」、ここで謳われている障害者である児童生徒とない 児童生徒と「共に生きる」社会を醸成するために、教育がなせることは何か?という のが今回の主題だった。  お金ありきでなく、理念を持って先ずは動くことが大事だと。生徒が選択できるこ と。医療・教育・福祉がチームを組むこと、、、、、。  *障害者の権利に関する条約 第24条(教育)  http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/adhoc8/convention.html#article24  以下のことを考えながらお聞きしておりました。  1.二元論から一元論(インクルーシブ教育)となった場合に、教育(教師)の専 門性を如何に保つか?育むか?  2.結局は経済的な視点が、この制度には大きく関与しているのではないか?  3.先天盲は減少しているが、後天性視力障害は増えているのでは?こうした現状 では、ロービジョンケアも盲学校の仕事では?  最後の3に関して、小西先生は、6月に新潟で開催される第22回視覚障害リハビリ テーション研究発表大会において、.「盲学校での中途視覚障害者支援」についての 特別企画をオーガナイズしている。楽しみな企画。   第22回視覚障害リハビリテーション研究発表大会   ホームページ: http://www.jarvi2013.net/   詳細な情報: http://andonoburo.net/on/1690  今回のお話で、障害児教育の流れと現場のご苦労が語られたが、最後に新潟盲学校 での積極的な取り組み(スマートサイト等)が披露された。  その後も小西先生とお話をする時間を持つことが出来た。眼疾患(未熟児網膜症 等)を持った子供たちの学童期の視機能と抱える問題点について教わった。医者は、 患者と治療の時点でのピンポイントでお付き合いしているが、教育の方々は、治療後 の長い10数年にも及ぶ経過で子供たちと関わっておられる。同じ方を語っていても視 点が違い、とても参考になった。つくづく、もっとお話をお聞きしたいと思った。  小西先生の、新潟盲学校のますますの発展を願います! 【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会&研究会】  平成25年6月12日(水)16:30〜18:00    「視覚障害グループセラピーの考察」       小島 紀代子 (NPOオアシス)  平成25年6月21(金)〜23日(日)   第22回視覚リハビリテーション研究発表大会   (兼 新潟ロービジョン研究会2013)    期 日:2013年6月21日(金)プレカンファレンス            22日(土)・23日(日)本大会    会 場:「チサンホテル&コンファレンスセンター新潟」4階       「新潟大学駅南キャンパスときめいと」 2階    メインテーマ : 「見えない」を「見える」にする「心・技・体」    大 会 長 : 安藤伸朗 (済生会新潟第二病院)    実行委員長 : 渡辺哲也 (新潟大学工学部 福祉人間工学科)  平成25年7月10日(水)16:30 〜 18:00    「新潟盲学校弁論大会 イン 済生会」  平成25年8月7日(水)16:30 〜 18:00    「楽しい外出をサポートします!〜『同行援護』その効果とは!?〜」      奥村 京子 (社会福祉法人新潟市社会福祉協議会)  平成25年9月11日(水)16:30 〜 18:00    「言葉 〜伝える道具〜」      多和田 悟 (公益財団法人日本盲導犬協会 訓練技術担当理事)  平成25年10月9日(水)16:30 〜 18:00    演題未定      西田 朋美 (国立障害者リハビリテーション病院 眼科)