済生会新潟第二病院眼科勉強会の報告です。参加できない方も、近況報告の代わり にお読み頂けましたら幸いです(長文です)。 報告 第199回(12‐09月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会  「視覚障害児の目や見え方に関する講演会」    主催:済生会新潟第二病院眼科    共催;新潟県立新潟盲学校   日時:平成24年9月19日(水)17:00 〜 18:30    会場:新潟盲学校 会議室    演題:「様々な障害を持つお子さんを通して考えてきたこと」    講師:富田香(東京;平和眼科) 【講演要約】  小児眼科を専門とした一開業医として、今まで拝見させていただいたお子さんとそ のご家族から学ばせていただいたこと、考えたことをお話させていただきました。  平和眼科は都内ではよくみられる本当に小さな診療所です。大体一か月に200〜220 名の障害を持ったお子さんが来院されます。その40%はダウン症のお子さんで、残り 60%は様々な障害を持ったお子さんです。    視覚に対する支援の必要なお子さんの病態は、非常に複雑です。器質弱視、機能弱 視(形態覚遮断弱視、斜視弱視、微小斜視弱視、不同視弱視、屈折異常弱視)に加 え、知的障害・発達障害や視覚認知障害の合併がみられることがあります。機能弱視 は、8歳頃までの視覚感受性期内での治療が非常に大切で、適切な眼鏡をきちんとか けさせること(屈折矯正)が、基本です。治療の目的は両眼共に良好な視力と立体視 が得られることです。弱視治療は、眼科医として見落としがないように、そしてお子 さんの視機能のためにがんばらなければならないところです。  小児の視力は、1歳で0.3前後、2歳で0.5前後、5歳で80%が1.0に達します。視反 応が非常に悪いお子さんの場合は、室内光のオン、オフでの反応を見たり、暗室での 光るおもちゃへの反応をみたりします。反応が見られる場合は、明室での光るおも ちゃへの反応を調べ、さらにコントラストのはっきりした顔視標や縞模様などへの反 応を見ていきます。通常、乳幼児では縞視標を使って視力を測定しますが、この方法 は自分で答えられないお子さんにも有用です。1歳半ころからは森実ドットカード、 2歳頃からは絵、3歳以降ではランドルト環字一つ視標を使い、8歳以降で大人と同 じ視力検査になります。  ランドルト環の視力は答えられるのに、絵視力は答えられないという視覚認知障害 を伴った先天無虹彩症のお子さん。そして、形態認知が良くて絵視力は良好なのに、 ランドルト環ではその1/2の値までしか答えられないお子さんから、年齢で決めるの ではなく、お子さん一人一人に合わせた視力測定方法を考えなければいけないことを 学びました。  視線外しのみられる脳性麻痺のお子さんからは、視反応をとらえるのが非常に難し い例があること、また診察室では非常な緊張状態で、思うように視反応が見られない ことがあることを実感しました。  眼科では常に眼所見と視力値を重ね合わせて検討しますが、眼底所見から考えるよ りはるかに良い視活動を示すダウン症のお子さんの例には、私も本当に驚きました。  聴覚障害にロービジョンを合わせ持ったお子さんでは、通常考えるような単眼鏡や ルーペが、学校では使えないことを教えられました。そして、視環境を整えること で、より視活動がしやすくなるようにすることの大切さを学びました。  最後に、小児では視覚障害者手帳の申請についてお話させていただきました。視力 が発達していく状態にあるため、単純な視力値では判断できず、年齢の標準値を考慮 する必要があること。視反応が発達によって変化する例もあり、経過をみる必要があ ること。潜伏眼振の例では、片眼ずつの視力の低値に比べ、両眼視力値がずっと良い ことがあり、どのように判断したらよいのか迷うこと;高次脳機能障害(注)では、 視力が測定できても、視覚を使えない例がみられるが、配慮されないこと;斜視が あって、片眼が使えていない場合でも、配慮されないこと;視野を判断することが難 しいこと、などから、小児では申請が難しいことをお伝えしました  視覚障害を持ったお子さんを拝見するとき、お子さんを中心としてご家庭、教育機 関・療育機関そして医療機関の3つの連携ができるだけ早期に、そして継続して行わ れるようにすることが大切です。そのための努力をこれからも続けたいと思います。 【略歴】  1980年 慶應義塾大学医学部卒業  1980年 慶應義塾大学医学部眼科学教室入局  1982年 国立東京第二病院(現・国立病院東京医療センター)勤務  1983年 国立小児病院(現・国立成育医療研究センター)勤務  1986年 北里研究所病院 勤務  1987年 平和眼科勤務(1995年開設者となり現在に至る)  1990年 学位取得  2009年 杏林大学眼科学教室 非常勤講師    *平和眼科    http://heiwaganka.com/ 《注釈》 (注)高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)  主に脳の損傷によって起こされる様々な神経心理学的症状。 http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/rikai/ (国立障害者リハビリテーションセンターHPより) 《参考》  1)子供の目の病気 (編集;東範行 国立成育医療センター眼科) http://www.skk-health.net/me/16/index.html  2)杏林アイセンター(杏林大学眼科)ニュースレター;特集〜小児眼科 『Kyourin Eye Center Newsletter Vlo38 summer 2012』 http://www.eye-center.org/newsletter/2012/vol38/summer.pdf#search 【後記】  済生会新潟第二病院眼科勉強会を、今回は富田香先生を東京からお呼びして新潟県 立新潟盲学校で行いました。雨にもかかわらず、多くの父兄や学校の先生方が参加、 70名を超す人で会場が満員になりました。講演会は、小西明校長先生の陣頭指揮で、 見事に運営されていました。  講演は、器質弱視だけでなく、機能弱視そして知的障害や発達障害、肢体不自由、 聴覚障害など種々の障害を持ったお子さん、そしてダウン症候群や、チャージ症候 群、無虹彩症など多くの症例提示があり、示唆に富んだ内容でした。「一番いろいろ なことを教えてくれたのは、小さな患者さんご本人とそのご家族。様々な障害を持っ たお子さんを通して、不思議に思ったり、疑問に思ったりしたことから、幅広い勉強 をさせて頂いた」とのコメントに深く感動。  富田先生は、1980年に慶應大学眼科(故植村恭夫教授)に入局、国立小児病院 (現・国立成育医療研究センター)などで勤務、1987年から母親と一緒に開業(1995 年開設者となる)。当初は少なかった小児の患者さんは、今では患者全体の6割を占 めるようになったとのことです。先生のご主人や娘さん、視能訓練士、臨床発達心理 士も含め10名ほどのチームで診療に当たり、昼食をスタッフ全員で食べながら、情報 交換を行うなど、まさに最強のスタッフで診療に従事されている、、、感動、感動の 連続でした。  富田先生と平和眼科チームの益々の発展を祈念したいと思います。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『済生会新潟第二病院眼科勉強会』  1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。 話題は眼科のことに限らず、何でもありです。  参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、 病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。  眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を 持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があ ります。      日時:毎月第2水曜日16:30〜18:00(原則として)      場所:済生会新潟第二病院眼科外来 *勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。  1)ホームページ「すずらん」   新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している   音声パソコン教室ホームページ   http://www11.ocn.ne.jp/~suzuran/saisei.html  2)済生会新潟第二病院 ホームページ   http://www.ngt.saiseikai.or.jp/02/ganka/index5.html 【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会&研究会】  平成24年10月10日(水)16:30 〜 18:00 (要;事前登録)    「『眼の愛護デー』のルーツを探り、失明予防へ」       岩田 和雄 (新潟大学名誉教授)  平成24年11月14日(水)16:30 〜 18:00    「活力〜どうやって生み出すかをを考えてみませんか〜」       大島光芳 (上越市)  平成24年12月12日(水)16:30 〜 18:00     「障がい者が、働くことを成功するために大切なこととは?」       星野 恵美子 (新潟医療福祉大学社会福祉学科)  平成25年1月9日(水)16:30 〜 18:00    「視覚障害者のリハビリテーションから学んだこと」       石川 充英 (東京都視覚障害者生活支援センター)