済生会新潟第二病院眼科勉強会の報告です。参加できない方も、近況報告の代わり にお読み頂けましたら幸いです(長文です)。  報告:第196回(12‐06月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会    演題:「フェアであること」    講師:多和田悟 (日本盲導犬協会事業本部 訓練・盲導犬訓練士学校                  統括ゼネラルマネージャー;神奈川県)     日時:平成24年6月13日(水)16:30 〜 18:00      場所:済生会新潟第二病院 眼科外来                       【講演要約】  「感じて歩く」(三宮麻由子著;岩波書店)の取材を受け三宮さんと対談をす る機会が与えられた。この本は三宮さんが月刊世界に連載していたものをまとめたも のである。対談のお話をいただいた時に彼女と話をすることが出来ることがとてもう れしかった。それまでにも何回か会って話をしたり電話で話をしたりすることがあっ たが、そのたびに今回のような嬉しさがあった。それは自分の知らない世界への門が 開かれる嬉しさなのかもしれない。外国に行くたびにその国で生活する人と会うこと が嬉しいし、考え方の違いに驚くことが多くある。それに似た喜びを感じるのであ る。 2011年3月11日の東日本大地震の日の出来事は、見えない彼女が見た風景が、見え る人語で書かれていた。見えない彼女にはこのように見えていたのだ、またそれをこ のように表現する彼女は「見える人語」と「見えない人語」を使うバイリンガルなの だと思った。私が彼女を手引きして対談の会場である岩波書店の本社地下の会議室に 行く時、狭い場所に入った時の私の肘に感じる彼女の手の力が微妙に変わることを楽 しんだ。それは彼女が見ている風景を共有できている喜びであった。また彼女は私の 腕から景色の情報の一つを得ていることで、同じ場所を違う見方で共有している連帯 感でもあった。  大多数の見える人にとって見ること以外の手段によって情報を得ることを、不可能 だと思う人が多いらしい。しかし「視覚以外の方法で情報を集めている見えない人の 景色」と、「見える人が視覚によって見ている景色」が全く同じである必要はないの ではないだろうか。少なくともその空間と時を共有した事実だけが間違いのない真実 であると思う。  我々は時として手段と目的、目標を混同して考えて本当にしなければならないこと を誤ることがある。「見ることは手段であって目的は別にある」のではないだろう か。何のためにその情報が必要なのか、その情報を得るためにどのような手段を使う か、を考える時、視覚以外の方法で情報を得ようとした時、その手段を選択し行使す る機会が与えられなければフェアな状態とは言えない。音声による言語以外のコミュ ニケーションがあるならば視覚によらないコミュニケーションがあっても不思議はな い。点字や音声による本などから得られる情報はそれを得る方法が視覚以外であるこ とを理由に制限があってはいけない。  目が見えないまたは見えにくくなって歩きにくくなる時、自分の思う時に思う所へ 行けないことが大変なことだと考えるが、その場合も歩いて何をするのか、そこへ 行って何をするのかという目的がはっきりしていれば歩く手段の選択肢は与えられ る。盲導犬はその選択肢の一つとして存在したい。しかしメディアを通して伝えられ る盲導犬の情報は、主に見える人を対象としているだけに、そこにハーネスを通して 左手に伝わる角(かど)、障害物、段差の情報と犬という人とは違う生き物と共に暮 らすことについては感じることが出来ない。盲導犬が白杖、手引きと共に選択肢の一 つとして見えない見えにくいために歩行に困難をきたしている方々の歩行の援助に寄 与したいと考えている。  違う方法で情報を得ている見える人と見えない人が、お互いにその方法と結果を理 解する必要はないように思う。私がかつて友人の盲導犬使用者から「見えているあな たに見えない私の気持ちがわからない」と言われた。それは具体的な私の彼に対する 行動の中に配慮がなかったという意味ではなく「見えないまま生きていく決心をした 情報収集の方法が変わった私の人生を、あなたも大切にしてほしい」という意味で あったと今は解釈している。自らが選択し決定をすることのできる情報と機会が保障 された時に、自分の人生に責任を持つ生き方が出来るのではないかと思う。 【略歴】  1974年青山学院大学文学部神学科中退         財団法人日本盲導犬協会の小金井訓練所に入る。  1982年財団法人関西盲導犬協会設立時に訓練部長として参加。  1994年日本人では唯一人の国際盲導犬連盟のアセッサー(査察員)に任命     (現在に至る)  1995年オーストラリアのクイーンズランド盲導犬協会に      シニア・コーディネーターとして招聘。後に繁殖・訓練部長に就任。  2001年オーストラリアより帰国。      財団法人関西盲導犬協会のシニア・コーディネーターに就任  2004年2月財団法人関西盲導犬協会のシニア・コーディネーター退職。     3月日本初の盲導犬訓練士学校、財団法人日本盲導犬協会付設       盲導犬訓練士学校教務長。     4月財団法人日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校開校  2009年4月財団法人日本盲導犬協会事業本部        学校・訓練事業統括ゼネラルマネージャー  *多和田氏は、盲導犬クイールを育てた訓練士として有名   著書:「犬と話をつけるには」(文藝春秋)、     「クイールを育てた訓練士」(文藝春秋、共著)等 【後記】  本当に爽やかな時を過ごしました。いつもながらですが、多和田さんの語りは気持 よく耳に、そして脳ミソに入り込んできます。多和田さんの発想は鋭く、話に引き込 まれ、あっという間の45分でした。いくつも心に残る言葉がありました。  「手段と目的、そして目標を明確にする必要がある。歩くことは手段である」  「歩行訓練士は、歩行の技術を伝えることによって、学んだ見えない人がより豊か な人生を送ることが目標。見えない人が、歩けないことはフェアではない」  「方針を変更することは敗北ではない」  「必要な情報が入らないことはアンフェア」  「見える人語」と「見えない人語」を使うバイリンガル、  「視覚以外の方法で情報を集めている見えない人の景色」と、「見える人が視覚に よって見ている景色」が全く同じである必要はない  勉強会に参加された方々からも、多くの感想を頂きました。 「盲導犬は歩くだけでなく、一緒に暮らす楽しみを教えてくれています」 「目の不自由な方にこうしてあげたいと独りよがりで思っていてもどうしようもでき ない自分がいましたが、How may I help you?(何かお手伝いできることはあります か?)と聞けばよいことが判り、今後活用していきます」 「一緒に行動したときにも、とても気配りが自然で楽しく過ごすことができました」 「この勉強会で参加者がお互いを高め合っている感じがしました」「謙虚に自分の人 生を賭けた仕事から滲む言葉を聞かせて下さいました。これほどの聞きごたえは久し ぶりのような重みがありました」  勉強会に参加された方から、「フェア」について以下のコメントを頂きました。   フェアプレーのフェアと夏の着物フェアのフェアは英語の綴りが同じなのだろう か? 辞書で調べると、fairには公平という意味と共に見本市とか博覧会の意味もあ る。「お父さん、fに空気のairだよ」と娘が教えてくれた。そうかfree air自由な空 気かと思いつき、フェアがそうであってくれればいいなと思いました。 「フェア=free air自由な空気」という解釈、、、、感動しました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『済生会新潟第二病院眼科勉強会』  1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。 話題は眼科のことに限らず、何でもありです。  参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、 病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。  眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を 持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があ ります。      日時:毎月第2水曜日16:30〜18:00(原則として)      場所:済生会新潟第二病院眼科外来 *勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。  1)ホームページ「すずらん」   新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している   音声パソコン教室ホームページ   http://www11.ocn.ne.jp/~suzuran/saisei.html  2)済生会新潟第二病院 ホームページ   http://www.ngt.saiseikai.or.jp/02/ganka/index5.html 【今後の済生会新潟第二病院眼科 勉強会&研究会】  平成24年 7月25日(水)16:30 〜 18:00    新潟盲学校弁論大会 イン 済生会     (兼:済生会新潟第二病院眼科勉強会)   1.「心との約束」          左近 啓奈 (新潟県立新潟盲学校 中学部2年)    2.「僕の将来の夢」        加藤 健太郎 (新潟県立新潟盲学校 中学部1年)       落語「転失気(てんしき)」   3.「将来に向けての目標」           古川 和未 (新潟県立新潟盲学校 本科保健理療科1年)  平成24年8月8日(水)16:30 〜 18:00    「左目のケガから教えてもらったこと〜発想の転換活用法〜」       内山 博貴 (特別養護老人ホーム介護職員;新潟県村上市)  平成24年9月19日(水)   注:第3水曜日 17時開始です    『視覚障害児の目や見え方に関する講演会』     (兼:済生会新潟第二病院眼科勉強会)      会場:新潟盲学校会議室      時間:17:00 〜 18:30    演題「様々な障害を持つお子さんを通して考えてきたこと」    講師 富田香 (平和眼科:東京)  平成24年10月10日(水)16:30 〜 18:00    「『眼の愛護デー』のルーツを探り、失明予防へ」       岩田 和雄 (新潟大学名誉教授)  平成24年11月14日(水)16:30 〜 18:00    「活力〜どうやって生み出すかをを考えてみませんか〜」       大島光芳 (上越市)