済生会新潟第二病院眼科勉強会の報告です。参加できない方も、近況報告の代わり にお読み頂けましたら幸いです(長文です)。  報告:第194回(12‐04月)済生会新潟第二病院 眼科勉強会    演題:「視覚障害リハビリテーションの現場から              〜全盲で高次脳機能障害を持つ方との出会い〜」    講師:野崎 正和       (京都ライトハウス鳥居寮;視覚障害リハビリテーション指導員)     日時:平成24年4月1T日(水)16:30 〜 18:00      場所:済生会新潟第二病院 眼科外来                       【講演要約】 1、視覚障害リハビリテーションの現場で  京都の視覚障害者福祉の特徴のひとつは、施設と当事者団体とが密接な関係にある ということです。当事者が必要とする事業を、当事者団体が運動して、ひとつひとつ 実現して来た結果が現在の京都ライトハウスなのです。視覚障害リハビリテーション (以下視覚リハ)を提供する鳥居寮もそのひとつです。それから、もうひとつは視覚 障害専門の相談事業が充実していて、当事者のニーズを相談員が幅広く把握している ことです。そこで、私は相談員にとって使いやすい社会資源でありたいと思っていま す。視覚リハは当事者の生活ニーズの一部にすぎないと思うからです。  さて、視覚リハとは、当事者の皆さんがそれぞれに困っていることをなんとかする 方法や工夫の仕方をお伝えすることです。つまり、見えない・見えにくいことから起 こる生活上の困難をちょっとでも改善するための技術指導ということになります。こ んな場合はこうしたらどうですかという方法は沢山あります。それを技術と言うか、 工夫と言うか、アイデアと言うかは別にして、そのような方法の集合体とそれを提供 するシステムが、視覚リハだと私は考えています。これは、山上敏子先生(行動療法 の大家)の講演をお聞きし、著書を読んで考えたことです。視覚リハって何だろうと ずっと考えてきて、こういう考え方が今の私には一番しっくり来ました。  簡単に言うと、私は白杖を使って歩く技術を指導する技術屋さんだということで す。私個人はたいしたことはないのです。ただ、その伝えた技術には、その人の人生 を豊かなものにする力があると思います。自由に外出できることによってどんな人生 が始まるのか、それはその人だけの新しい物語です。  私は歩行訓練士なので、「歩行の自由は精神の自由だ」と言われると、その通りだ と思ってしまいますが、一人で歩けることだけに価値があるわけではありません。あ る人は、「パソコンを習って、サピエ図書館で自由に読書ができるようになって、こ れで生きていくことができると感じている」と話していました。  それから、中途視覚障害の方や、進行性のロービジョンの方などに対する「心のケ ア」についても、視覚リハの中でどう取り組んだらよいのか、ずっと考えていますが まだよくわかりません。ただ、現在がどうであるかによって、過去の意味は変わると いいます。視覚リハによって、もし現在が豊かになるなら、一度失われたように思え る過去にも新しい意味が生まれるのではないでしょうか。それがもしかしたら「心の ケア」なのかもしれません。 2、視覚障害と高次脳機能障害を併せ持つ人との出会い  私が担当した中でも特に記憶に残る人たちのプロフィールです。 Iさん (1982年 30年前 当時40代 脳出血 ほぼ全盲→弱視→全盲)  最初と3回目の脳出血のあとに視覚リハを担当しました。最初の時は、視力の回復 がありびっくりしました。その時は認知の障害はなくて、修了後、銀行に復職し当事 者団体の役員として活躍されました。昨年亡くなりましたが、車椅子生活で言語障害 もありながら最後まで充実した人生でした。 Oさん(1985年 27年前 当時20代 交通事故 全盲)  初めてあった時は冬で、いつもこたつに入っていて、昔の事を少しだけ覚えている ような状態でした。記憶がないとか、憶えられないとかいうことがどんな状態なのか この人から学びました。散歩から始めて、指導員2名が交代で5年くらい視覚リハを続 けました。修了後は、授産施設に入所し、今も勤めています。 Tさん (2005年 7年前 当時60代 クモ膜下出血 全盲)  こちらは視覚リハのつもりで接していても、本人はそう思っていませんでした。そ のことにずっと気づかなくて、人間関係の維持にも視覚リハの技術指導にも失敗しま した。しかし、もともと工務店の親方をされていたため人を使うのは上手で、今は ホームヘルパーさんをうまく使ってしっかり生活しています。 S.Sさん (2006年 6年前 当時40代 交通事故 全盲)  多幸症的調子の良さが特徴でした。この人は歌謡曲で自信と記憶の回復をしまし た。いい加減な性格に見えますが、他人の悪口を一切言わない人でした。この人も、 ホームヘルパーさんを利用しながら、マイペースで単身生活をしています。この人を 担当している時に、高次脳機能障害の勉強を始めました。 M.Sさん (2007年 5年前 当時40代 脳梗塞 全盲)  記憶障害+空間認知障害+全盲で、その他にも幅広い症状があり、視覚リハ的には 一番大変だったように思いますが、逆に一番多くのことを学ばせてもらいました。今 は社会の中で自分の役割(講演活動)を見つけています。  こんなふうに見てきますと、どの人の視覚リハも同じゴールはひとつもありませ ん。それで当たり前ということです。 【略歴】  1950年生まれ。岡山県津山市出身      立命館大学文学部卒業。  1979年京都ライトハウスに歩行訓練士として入職(日本ライトハウス養成9期)     以来歩行訓練士として32年間同じ職場に勤務。  2011年3月定年 その後、嘱託で仕事を続けている 【後記】  歩行訓練士として32年間現場での経験をお話しして下さいました。  「一人ひとりのゴールは違う」〜利用者の方のニーズは視覚障害リハビリテーショ ンだけではなくて、生活面であったり、家族の事であったり、年金のことであった り、行政の制度であったり、非常に幅が広い。あくまでリハビリテーションはその一 部と、(野崎さんの思う)歩行訓練士の仕事の全体像を語りました。  「心が動くと身体が動く。身体が動くと心が動く」「歩行の自由は、精神の自由」 〜歩行訓練士は、白杖を使って歩く技術を指導するという仕事をしている技術屋。技 術屋としての私個人は特別たいした人間ではないけども、お伝えしている技術には、 その人の人生を豊かなものにする力があります。自由に外出できることによってどん な人生が始まるのか、それはその人だけの新しい物語。  「やってみないと判らない」〜必ずしも歩行だけに限らず、ほかの部分であっても 新しい何か、その人が生きていく楽しみ、喜びが得られれればいいのです。  「現在が如何であるかによって、過去が変わって来る」〜現在が豊かになるなら、 一度失われたように思える過去にも新しい意味が生まれるという意味だそうです。深 いです。  「工夫するのが指導員、努力するのが利用者」〜リハビリテーション達成の定義に ついて「いつまでも指導員が付いているわけではありませんので、指導員がやってい たような工夫をご自分がしだして一つ一つ結果をご自分のものにしていけるようにな りましたら、リハビリも終わりということやと思います」なるほどと合点しました。  「おだてるだけのうわべの言葉だけでは駄目」〜本人が寝る時に思い起こして、言 われたことにそうだなと納得できなければ進みません。「三歩進んで二歩下がる」  お話の内容が、非常に謙虚で、論理的でした。特に個々の症例についてのお話は、 状況が目に浮かぶようでした。優しい声でのお話し、仕事に対する謙虚な姿勢が伝わ り、何かこころが豊かになるような、他者に対して優しくしてあげたいと思わせるよ うな素敵なお話でした。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【済生会新潟第二病院眼科 勉強会連絡先】   950-1104 新潟市西区寺地280-7    済生会新潟第二病院眼科 安藤伸朗    phone : 025(233)6161 fax : 025(233)6220    e-mail:gankando@sweet.ocn.ne.jp ******************************** 『済生会新潟第二病院 眼科勉強会』  1996年(平成8年)6月から、毎月欠かさずに続けています。誰でも参加出来ます。 話題は眼科のことに限らず、何でもありです。  参加者は毎回約20から30名くらいです。患者さん、市民の方、医者、看護師、 病院スタッフ、学生、その他興味のある方が参加しています。  眼科の外来で行いますから、せいぜい5m四方の狭い部屋で、寺子屋的な雰囲気を 持った勉強会です。ゲストの方に約一時間お話して頂き、その後30分の意見交換があ ります。      日時:毎月第2水曜日16:30〜18:00(原則として)      場所:済生会新潟第二病院眼科外来 *勉強会のこれまでの報告は、下記でご覧頂けます。  1)ホームページ「すずらん」   新潟市西蒲区の視覚に障がいのある人とボランティアで構成している   音声パソコン教室ホームページ   http://www11.ocn.ne.jp/~suzuran/saisei.html  2)済生会新潟第二病院 ホームページ   http://www.ngt.saiseikai.or.jp/02/ganka/index5.html 【次回以降の済生会新潟第二病院眼科 勉強会 & 研究会】  平成24年5月9日(水)16:30 〜 18:00    「失明50年を支えた母の言葉」       西田 稔 (横浜市)  平成24年6月9日(土) 「新潟ロービジョン研究会2012」    時間:開場13時 研究会13時30分〜19時30分    会場:済生会新潟第2病院 10階会議室    会費:無料 (協賛なし)    要;事前登録   シンポジウム1『ITを利用したロービジョンケア』   特別講演「網膜変性疾患の治療の展望」   基調講演「明日へつながる告知」   シンポジウム2『網膜色素変性の病名告知』  平成24年6月13日(水)16:30 〜 18:00    「フェアであること」       多和田 悟 (日本盲導犬協会事業本部 訓練・盲導犬訓練士学校                  統括ゼネラルマネージャー;神奈川県)  平成24年7月 日時未定    新潟盲学校弁論大会 イン 済生会 (予定)  平成24年8月8日(水)16:30 〜 18:00    「左目のケガから教えてもらったこと〜発想の転換活用法〜」       内山 博貴 (特別養護老人ホーム介護職員;新潟県村上市)  平成24年9月19日(水)17:00 〜 18:30   注:第3水曜日 17時開始です    会場:新潟盲学校会議室    「視覚障害児の目や見え方に関する講演会」     演題未定       富田 香 (平和眼科:東京)  平成24年10月10日(水)16:30 〜 18:00    演者・未定  平成24年11月14日(水)16:30 〜 18:00    「活力〜どうやって生み出すかをを考えてみませんか〜」       大島光芳 (上越市)